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機を見る・2

 春、進級準備のためにある休暇中に、普段は使わない倉庫の片付けをすることになった。


 本来は用務員さんの仕事だけれど、倉庫に私物を置きたいのはオーツ先生で「片付けなんて待ってられない」と言うので、とりあえず物を置く場所が空いているかどうかを、リリーが先に見に来た。



 扉を閉めたのがいけなかったらしい。出ようと思った時には内側からは開かなくなっていた。


 校舎からこの倉庫はそれほど離れてはいないし、地下でもない。通風口はあるので大声で呼べば外へ声も届く。


 ただ窓は戸板で半ば塞がれていて、戸板の無い場所には格子がはまっている。こんな所に物取りが入るとも思えない。アライグマやイタチ対策かもしれない。



 まだ夕方にもならない時間でも、休暇中の学院内に人は少ない。


 カミラは新学期まで自宅で過ごすと言って帰って行ったし、ここまで散策する人はまずいない。リリーの不在に誰か気がつくのは、明日になるだろうと思われた。








 靴音がする。神経を張り詰めていたリリーは、ゴクリと喉を鳴らした。


 夜に来るものが善いモノかどうかは、わからない。何しろ公国ではいたる所に亡霊が出るのだ。自分が今まで遭遇していないだけで。



 扉の外で物音がする。ガタゴト、大きな音と共に人の声がした。


「アイアゲート、ここですね。返事をしてください」


 少し乱れた呼吸は珍しいが、落ち着いた声音はジャスパーのように聞こえる。


 少し手間取って木の軋む音がし、扉が開いた。月明かりを背にして影が床へ伸びる。


「無事ですか――アイアゲート。ペイジさんとモンクさんが、探し回っています」


 ペイジとモンクの名が出るなら、亡霊が騙っているのではなく、ジャスパーで間違いない。



 リリーは入口から最も遠い暗がりから、明かりの届く範囲へそろそろと出た。


「こんばんは」


 なんと言っていいのか分からず気の抜けた挨拶をするリリーを、上から下までざっと視認して、ジャスパーは顔から緊張を消した。


「こんな所で何をと言うより、まず出ましょう。ひどい埃です」


 埃はジャスパーが扉を大きく開け放ったせいではなく、部屋の隅に隠れて服をホコリまみれにさせたリリーのせいだ。


「誰がこんなことを」と問うジャスパーの目つきはいつになく鋭かった。


なぜかリリーが叱られている気分になる。


「扉は自分で閉めました。開け放している間に猫でも入ったら困ると思って。用が済んで出ようとしたら、何か引っ掛かったみたいで開かなくなっていました。お手間を取らせてすみません」



 少なくともオーツ先生は、ここに自分が来ていると知っている。最悪明日になれば、先生が来てくれると思っていた。


 なので焦りはしなかった。ここは快適とは言えないが、一晩過ごせないほどでもない。



「扉がなにかの拍子に開かなくなったと?」


 頷くリリーに向けられたジャスパーの眼差しは冷たい。そのまま続ける。


「横木を渡すかのように、太い枝がさしてありました」


 それなら開かなくて当たり前だ。

リリーは「そうですか」の一言で済ませた。


 中にいた自分には語れる事が何もないのに、なんだか責められているみたい。そう思っても、助けられた身では口にし辛い。



 リリーにはとても長く感じられる沈黙の後、ジャスパーが口を開いた。


「ペイジさん達にもお知らせしなくては。歩けますか。話は戻ってからにしましょう」


 本当にお話しできる事は大して無いのだけど。

リリーはそう思いながら、肩についたクモの巣を指先で落とした。


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