機を見る・1
二年生のクラスは持ち上がりで変更がない。まだ三月なのであと半月一年生だ。
春になっても新一年生は入学せず、今年は九月入学になるという。他国から留学生が来る都合で、遅らせるのは過去にもあったことらしい。
そして二年生になっても、一部の人には嫌われるみたい。リリーはため息をついた。
手には裁ちバサミを持っている。「あんたみたいに豊かな髪を切ったら、ハサミの刃が負けそうだよ」と、昔近所のおばあさんに言われた事があったけれど。
家庭科室にあったものなので、はじめから切れ味は良くない、私が悪くするんじゃない、と思うことにして、リリーは背中へ落としていた三編みを前へと持ってきた。
中ほどにねっとりとしたものが数ヵ所ついている。匂いで分かるこれは松ヤニだ。
松ヤニはついたら取れないし、刃物についても取るのが大変。
花屋に出入りしていたリリーには、それくらいの知識はある。
そういう訳で、これは髪を切るしかない。どうせたいして手入れもしていないし、願掛けをして伸ばしていたわけでもない。切るのに支障はないけれど、学校中で一番髪の短い女の子になってしまうのは気になった。
母と住んでいる頃は、髪を売ってお金に換えている人も身近にいた。お金持ちの奥様のお洒落なカツラになる。金髪銀髪は高く買ってもらえるけれど、黒や赤は大した値がつかないと聞いた。
赤い髪に価値がないなら、切り落としても惜しくはない。
スカーフをずっと巻いてはいられない。噂になってしまうだろう。
なんてグルグル考えるのは、切ることに抵抗があるから。自分でも分かっている。いくら考えても仕方がないとも。
一呼吸おいて。リリーは髪にハサミをあてた。
ぷつり、と真っ直ぐに切った髪は目立つらしい。
短くても編めるけれど高い位置でまとめると馬のしっぽより短い。
最初に気がついて小さく悲鳴をあげたのは、朝の教室で会ったカミラだった。両手で口を覆っている。
「気がつかないと思ったのに」
「いや、すぐ気がつくよ」
目をくりっとさせたリリーに、スコットが強張った顔で応じた。言葉の出ないカミラにかわって尋ねる。
「髪、どうしたの」
「庭園を歩いていたら松ヤニがついたみたい。取れなさそうだったから、切っちゃえと思って。前から長すぎると思ってたし」
髪なんて伸びるもの。どうってことない、と伝える。
「アイア……、相談してくれれば」
絞り出すようにカミラが言う。
ありがとうとは言ったものの。
「私の髪だもの、私の好きにするわ」
本当に気にしてもらうようなことじゃない。笑ってみせると、教室中が息を呑むのが伝わった。
みんな大げさよ。リリーは周囲を見渡した。痛ましそうにされる意味がわからない。
「どうしたの? 髪は切られたんじゃなくて、自分で切ったのよ」
騒ぐようなことだろうか。――とても静かなので、騒ぎとは言わないのか。
これ以上口を開けば、さらに空気が冷えそうな気がする。なのでこの話題はここまで。すぐに見慣れるだろうから。




