オーツ先生の部屋・2
「このクマはロビンくん。見てわかるように、クマの執事なのよ」
クマのぬいぐるみはサイズのきちんとあった黒い上着を着ていた。執事と言われれば、執事に見えてくる。
ロビン、どこかで聞いた名だとジャスパーはすぐに思い出した。夏に薄暗い部屋で甘い酒を舐めていたアイアゲートから聞いた名だ。
「部屋にはロビンがいる」と。
確かに、この思うところのありそうな顔つきの熊が部屋にいたら、悪いこと、つまり夜更けの飲酒などはし辛いだろうと思う。気に入らなければ歩き出しそうな気すらする。
「聞きたい事があるなら、聞いたら? このコは起きそうにないし」
言われてジャスパーは、探り合うようにしていた執事クマのロビンから目を離した。
「彼女に目をかけていらっしゃるようですが、ひとり特別扱いは問題なのでは」
ジャスパーの疑問は軽く笑い飛ばされた。
「ないわ、全く。アイアへの指導は『副業』で学院長の許可も出ていることよ。知らないでしょうけど、講師の副業は禁じられていないの。この子の保護者から相応の報酬も受け取ってる。もし他にも希望者がいて、私が見所があると思えば引き受けるつもりよ。だから贔屓でもなんでないわ」
納得の行く理由だった。オーツ先生がどれほど優秀でも、師事させたいと考える保護者は少ないと思われるが。
「今度はワタクシに質問させて。知っていると思うけれど、精神系の使い手に嘘をつくのは難しいことよ。試してみてもいいけど。――あなた、アイアの居場所がおよそ分かるわね」
ジャスパーは答えなかった。
「ふぅん、絶対じゃなくて条件つきってこと。それは『触れる』かしら。今日は体術があった? そう。条件が整えばアイアに限らず、ね」
オーツ先生が勝手に話を進めてゆくのは何かを読み取ってか、ほのめかして態度の変化を見ているのか。
「その追跡能力、大公家独特のものと記憶しているけれど」
言いながら射るような眼差しを向けられて、ジャスパーは顔色ひとつ変えないよう努力しながら同じ強さで見返した。
逸せば認める事になるが、逸さなくても読み取られるのだろう。
「祖母がひと時、先々代の公と親しくさせて頂いたと聞いておりますが、それ以上は」
知らないし誰も口にしない、身内ですら。
「あなたの左眼、何か入れているわね。本来は金茶色なの?」
オーツ先生の追求は止まなかった。
左右で瞳の色が違うのはある事で、隠すほどではない。が、片眼が金茶となれば話は別だ。それが無ければ自分が生まれるまでセレスト家との縁を誰も考えなかったのだから。
色ガラスを目に被せて痛みなく使用できるのは、千枚のうちで一・ニ枚。その技法は極めて精緻で門外不出。工房はグレイ領にある城壁の内側に作らせて、職人は領地外へは出さず、高賃金を支払っている。
そこまでして伏せていたのに、オーツ先生にはやすやすと見破られた。
「そんな刺しそうな顔をしなくても、言いやしないわよ」
意に介さず軽く笑いとばしたオーツ先生は、急に真顔になる。




