卒業パーティー・1
後期試験の結果は、またもやリリーに衝撃を与えた。
学年の十位を目指したのに、リリー・アイアゲートの名はなんとジャスパー・グレイのすぐ下にあった。周囲も驚きの二位だ。
「アイアは不本意そうだけど……それはジャスパー様に負けてガッカリ、じゃないんでしょう?」
刻んだベーコンを混ぜたマッシュポテトをパン生地の上に乗せたカミラが、からかうような目をリリーへと向けた。
二人が珍しく調理室にいるのは、たまには一緒にどう? と誘われて、家政部の調理実習に参加しているからだ。
「まさか。私の二位は、首位に圧倒的な差をつけられての二位だもん」
「それは、外から見るぶんには、わからないけどね」
カミラの言うのは正しい。点数には上限があるので、実力ほどの差はつかない。力の差が分かるのはジャスパーと自分、教師くらいだ。
「こんなに上がってしまったら、次の試験でもう上がないわ。どうしてみんな、こんなに悪かったのかしら」
つい残念そうになるリリーに、カミラは同情気味だ。
「私達と違って、貴族の方々は十二月からお忙しくなるでしょう。勉強する時間が取れないのよ」
後期試験は一月末で、公国の社交シーズンは十二月から。公都邸に住む生徒は寮生と違って、生活が落ち着かないことと思う。
そこまで考えが至らなかったのはリリーの落ち度。
一度上げた成績を落とすわけにはいかない以上、次から維持を目指すしかない。
「アイアは卒業パーティーには出るの?」
マッシュポテトの上に紐状にしたパン生地を幾本ものせて編むリリーに、カミラが尋ねた。焼き上がれば籠目のようになるはずだ。
出来上がりが直径十八センチになるパンは、ちょっとした集まりの手土産になるような、テーブルを少しだけ賑わせるパンだ。
ミートパイを作る事を思えば、ベーコンマッシュポテトパンは手間も少ない。
仕上げに艶出し用の卵液を刷毛で塗りながら「出ない」とカミラに返す。
卒業パーティーに参加が義務づけられているのは三年生全員と二年女子。一年生は級長と各委員だけ。
出たければ一年生の参加も可能だけれど、男女比を考えて一年生は男女ペアで参加するようお達しが出ている。
制服での参加可とされているものの、女子はここぞとばかりにお洒落をすると聞く。
ダンスが好きなわけでもなく、適当な服も持たないリリーには、参加する気は皆無だった。
「カミラは、スコットが運営委員になってるでしょう?」
「そうなの。だから誘ってもらって。でも着ていく服がないのよ。制服で行こうかしら」
「見劣りするわよ、きっと」
リリーは遠慮なく本音で返した。




