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猫目金緑石 後日談・2

 朝出校するなりすぐに机の上にタイピンを置くと、リリー・アイアゲートは座ったままピンを見、目の前に立つジャスパーを見た。


「きちんと発動しましたよ。報告すべきかと思いまして」


 そう伝えれば嬉しそうな顔に気づかわしげな色が加わった。普段より抑えた声で返される。


「良かったです、失敗していなくて。でもずいぶんお疲れになったのですね」


 発動条件はそれでしたか、「ひどく疲れた時」。

ジャスパーは納得しつつ礼を述べた。


「確かに疲れました。ですが、あなたの声で元気づけられました」


「私の声? それは……成功とは言えません。本来の設定は『ジャスパー様の聞きたい声』で『ジャスパー様の聞きたい言葉』なので」


 後ろ半分しか達成できていないからこの術は未完成だ、と照れたように笑う石と同じ色の瞳をもつ同級生に、ジャスパーは返す言葉を失くした。



「聞きたい声での望む言葉」なら成立しているのではないか、と思っても「聞きたい声」と言われた後では、口にするのは憚られた。


 自分が疲れた時に聞きたいと思うのがアイアゲートの声であるというのも、まだ受け止めきれない。


 「それで何と聞こえたのか」と無邪気に問われでもしたら、ジャスパーとしてはますます言いづらい。本人を前にして言えるはずもない。



 まだ彼女に苦笑の名残りのあるうちに、話をかえる事にした。


「この術は使い切りと見ましたが、同じ石に再度付加する事は可能でしょう?」

「それもお分かりですか」

「また、お願いできますか」


簡潔に頼めば。

「――また失敗するかもしれませんよ」

念を押された。


「あなたの声で結構です。疲れきったところに聞こえるというなら、休む目安にもなりますので。声が聞こえたら休むとします」

「聞こえる前に休んでください」


 呆れ声と共にピンに手を伸ばすのを見、話は終わったと自席に行きかけて最後にもう一言添えた。


「できるだけ早く返していただきたい」

「他にもタイピンなんて、たくさんお持ちでしょうに」


 くすりと可笑しそうに笑う顔に「花笑み」という言葉を内心で当てはめつつ、ジャスパーは顎を少しひいた。


「それでも、です」



 離れ際にちらりと見れば、首をかしげて石を光に透かすようにしている。本当は術は完璧だったのだと伝えたいところだが、やはり口に出しかねる。


 ジャスパーは、やり取りを見守っていたクラスメイトの視線を無視して席についた。


 タイピンをしていなくても歪んでいないであろうネクタイの位置を直しながら。


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