優しさの距離・3
バツの悪そうな顔でトムが続ける。
「リリーは良いウチのコになったんだから、昔の知り合いが馴れ馴れしくしたら、今の友達の手前格好がつかないって。『あの子はこんなとこにいていい子じゃないんだから、お前が足を引っ張るな』って、父さんからもクドクド言われてんだよ。今日だって、お前のその服着たヤツ他にもいたろ? 俺が気ぃ遣ってんのにお前がニコニコ寄って来るから、どうしていいか分かんなくなった」
トムの知らないフリは意地悪ではなくて、優しさからだった。
「トム……」
リリーの目から、とうとう涙がこぼれた。
「だから、泣くなって言ってんのに。あ――もう」
トムが今度は上着の袖で涙を吸い取る。
「トム……シャツと同じくらい袖もイヤ」
汚れ具合はむしろ袖の方が上じゃないかと思う。
「ゼイタク言うな。泣くお前が悪い」
リリーはトムの腕を押しのけて、ポケットからハンカチを出して顔を拭いた。「持ってんなら、はじめから自分で拭けよ」という文句は無視する。
物陰に引っ張ったのも、自分と一緒のところを他の人に見られないようにという配慮だったのだ、と今さらにして気がつく。
「おばさんもおじさんも、元気? お兄ちゃんも変わりない?」
「おう。商売が大きくなって、総出で働いてる」
それは良かったと笑顔になるリリーを、しげしげと眺めたトムが口にする。
「お前大きくはなったけど、昔の方が可愛かったんじゃね? あの頃の方が毛ヅヤも良かったし、顔も今みたいにカサカサしてなかった」
毛ヅヤ、また人を馬みたいに。髪は坊ちゃまエドモンドが手入れしてくれていたし、顔も坊ちゃまが何かのクリームをすり込んでくれた。
自分でする今の方が雑だと自覚しているものの、まさかトムにわかるほどの差があるなんて。リリーのショックは隠せない。
「お前、学校行ってんだろ。学校で何してんだ?」
トムが好奇心丸出しで話を変えてくる。
「なにって……勉強。あとは、釘刺し?」
リリーの投げる釘に興味を持ったスコットとジャスパー他数人で時々、釘を投げて地面に刺さる他の人の釘を倒す「釘刺し」をする。単純な遊びに見えてなかなかに奥が深いと好評だ。
リリーの持つ中で最強の釘は、トムから奪った釘を改良したもの。昔はもうひと回り細い釘が使い良かったが、手が大きくなった今はこの方が威力がある。
説明するリリーに「お前、まだあんな遊びしてたのかよ」とトムが心底呆れたという顔を向ける。
「まあ、良かったよ。お前が学校で肩身の狭い思いをしてないんなら。困った事があったらいつでも来いよ。ウチは男手が多いから頼りになるぜ」
「ぜ」とか言っちゃって、とリリーがからかう前に、トムが「それにしても」と不思議そうに言う。
「どんだけキレイになるかと思ったのに変わんねぇし、どっちかって言えば前の方がカワイくしてたよな」
――まだ言うか。
「全部自分でするの、大変なんだから」
男の子にはわかんないのよ。有り難くも失礼な幼なじみに憤慨して、リリーは唇を尖らせた。




