優しさの距離・1
年末から年始にかけて授業はお休みとなる。寮生も自宅へと戻り、家族と新年を祝って過ごす生徒が多い。
アイアゲートの父母も「ぜひおいで」と誘ってくれたけれど、行って戻るだけでお休みの大半が潰れる。
父母と過ごせるのはせいぜい一日から一日半。それなら長い学年末のお休みに行った方がいい、とリリーは手紙の返事を書いた。
その頃になって何かしら忙しければ行かないかもしれないが、それはそれだ。
お昼を食べながら、リリーはカミラとスコットとそんな話をしていた。
「それなら、うちは公都だからいらっしゃいな。狭い家だけれどアイアが来てくれたら、父も母も喜ぶわ」
カミラの熱心な誘いに、リリーの心も少し動く。でも年の変わり目は家族で過ごすものらしいのに、私がお邪魔してよいものか。
決心がつきかねるところに、それまで黙って聞いていたスコットが「ひとつ提案があるんだけど、もちろん断ってくれていいからね」と前置きして切り出した。
「僕の家はここから割と近い地域にあって、この数年父が主導して、地元の教会で年末年始に炊き出しをするんだ。人手はいくらでも欲しいから、アイアゲートさえよければ手伝ってくれると助かるよ」
スコットが口にした地区名は、リリーの住んでいた場所とはまるで違う、生活に余裕のある住民が多いとされる落ち着いた地域と記憶している。
「炊き出しの必要な人がいるとは思えないのに」
リリーの疑問をスコットがひろった。
「外から見ても内実は判らないものだし、困っている人はどこにでもいるんだよ」
「スコットのお父様は素晴らしい方ね。皆が家にいたい時に、率先して人に尽すなんて」
とても出来る事じゃない、としきり感心するカミラに、スコットは「どうかな」と首をひねる。
「お金を稼いでも、それだけでは人から尊敬は得られない。父は社会的に認められたくてしている事だから、カミラが思うような、そんないいものじゃないよ」
それでも。貧窮している人にとっては有り難いことに変わりはない。施す側の理由など些細なことだ。受ける側にいたリリーはそう思う。
今までも教会で年末年始に手伝いをしたことはあったけれど、それは自分が食べる為。今年は違う。
「私でよければ、お手伝いさせて」
リリーはスコットにそう頼んだ。
リリーのいた地区は教会までもが貧しかったのだと、今日初めて知った。
年の暮れに配られるのはパンとチーズだけ。それもチーズは向こうが透けて見えそうなほど薄かったのに。
ここでは毎年マッシュポテトとソーセージ、キャベツとニンジンのスープを配るという。
調理が得手とは、とても言えないリリーは、盛り付けの係にまわることにした。
初めてお目にかかったスコットのお父さんはヒゲをはやした恰幅の良い紳士で、会って早々に「君がカミラさんかな?」と聞き、「違うって。来るのはアイアゲートだって何度も教えたよね」とスコットを不機嫌にさせていた。
お父さんが笑っていたところを見れば、スコットは家でよくカミラの名を口にするのだろうと予想がつく。




