リリーのリース教室・2
カミラより早く飾りつけが終わったリリーは、残った端材でひとつ作ることにした。仕方がないけれど、全体的にボリュームが足りない。
思いついて手持ちのハンカチをねじって細くし、ムクゲの細枝に絡めて円形を作った。キンモクセイの葉は使い切ったので、枝がそのまま見えてしまうけれど、これはこれで別物と思えばいい。
ハンカチの処々に、針を使って糸でボタンを縫いつける。これは背が伸びて着られなくなった服から外しておいた物だ。
赤い実も見事に残っていないので、リリーはあまりのリボンで花を作ることにした。
指3本に巻き付け平らに折ったリボンの中央を、糸できゅっと締め、重なるリボンをひねりながらずらして立体感を出す。
教会のお祝い事などで作っていたもので、幅広のリボンなら大きな物が、狭ければ小さく可愛らしいものができる。我ながらよく思い出したと内心で自画自賛するリリーに、イリヤがのんびりと話しかけた。
「アイアゲートさんのクラスはまとまりがあるのに、僕のクラスはまとまりに欠けるらしいよ」
リリーより先にカミラが「それは誰が言っているの」と尋ねる。
「先生」
どうして。とリリーが問う前にイリヤが続けた。
「マクドウェル様と一部の男子がうまくいってないので」
ここでレイチェル・マクドウェルの名が出るとは。うまくいっていない一部の男子とはおそらく平民だろうと、リリーとカミラは見交わした。
それに気がついたらしいイリヤが気遣わしげに口にする。
「アイアゲートさんにも、当たりがキツイらしいって……」
まさかイリヤまで知っているとは。リリーは情けないような気持ちで笑いをこぼした。
「仕方ないわ。私が常識知らずだから、マクドウェル様のお気に触るの」
「そうなの?」とイリヤがカミラを見る。カミラは少し時間をおいて話し出した。
「『常識』は難しいと思うの、私。マクドウェル様やお仲間からしたら、楽器のひとつも演奏出来ないなんて、信じられないと思うのよ。でも私やアイアにしてみれば、できなくて普通でしょう? イリヤさんから見れば馬に乗れるのが当たり前で『常識』でしょうけれど、私は馬が怖いわ。アイアなんてこの間馬に髪の毛を食べられそうになっていたし」
「え!?」
驚くイリヤにリリーから説明する。
学級ごとの活動の時間に「馬を知ろう」ということで、厩務員から馬の生態について教えてもらっていた時のこと。
リリーは気づかなかったので、見ていた級友の話である。
リリーが特にその馬に何かしたわけでもないのに、馬が首を伸ばし後ろから頭の匂いを嗅ぐようにしたかと思うと、三つ編みにして背中に垂らしていた髪に向けて、口を大きく開いたらしい。
見ていた子が「あっ」と思わず声を上げた途端に、馬は何事もなかったかのような顔でそっぽを向いたという。
「ニンジンみたいな色だからじゃない?」
真面目くさった顔で言うリリーに、「気に入られたんだね」とイリヤがおかしくてならないように笑う。




