リリーのリース教室・1
用意するのはムクゲの細い枝、大量のキンモクセイの葉、松ぼっくり、赤い実のついたもの例えばサルトリイバラなどがいい。
後は手持ちのリボンやちょっとした小さな飾り、金属や貝の釦なども素敵かもしれない。
「アイア先生、土台ができました」
カミラの手元にはムクゲの枝をねじって円形にしたものにキンモクセイの葉を隙間なく差し込んだリースの土台があった。
花の少ない晩秋から冬に、部屋や玄関扉を飾るリースを作るのは、アイアゲートの母の趣味で、勉強の息抜きにとリリーに教えてくれた。
柳で花籠を編んでいたリリーにとっては扱い慣れたもの。すぐに上達した。
普段の週末は自宅へ帰るカミラだが、今週は両親不在のため寮へ残ると言うので、「アイアのリース教室」が開催されたのだった。
生徒はカミラひとり、見学者はイリヤ。たくさんの素材はきのこ狩りで拾ったものと、イリヤが自宅のある牧場の森で集めてくれたものだ。家が遠いわけでもないイリヤも実は寮生だった。
「でも、四着はすごいわ」
先日のレースで四位に入ったイリヤをカミラが誉める。
三位でなくて悔しいのではないかと思いきや「あの馬にしたらこれ以上ないほどの出来で、僕の評価が上がった」らしい。
速い馬には実績のある騎手が乗るので、イリヤには話が来ないと聞いた時には驚いたけれど、少し考えればわかることだった。
お金の絡む話だし、まだ何者でもない若手に大切な馬を任せようという馬主はいないだろう。
「僕はいつかグレイ侯の馬を任される騎手になりたいんです。僕が知るなかでグレイ家の馬は一番強いから」
ジャスパーは馬を一頭、学園の厩舎に預けている。世話は厩務員がするが、馬術部とイリヤがかなりの部分を担当しているとは、ジャスパーから最近聞いた。
イリヤの一族が営むのはよく知られた馬専門の牧場で、グレイ家の所有する競走馬はイリヤの父がみていることもあり、ふたりは入学前から面識があったという。
おしゃべりをしながらリリーとカミラがリースを作る隣で、見学と言いつつもイリヤは飾りにするリボンを結んでくれる。
今三人がいるのは寮の共有部。週末ということもあり、残っている生徒はわずかだった。
散らかし放題の大テーブルの上にはリースが四つ。
「では松ぼっくりを括り付けます」
三個でも五個でも。等間隔でも不規則でも、そこは感性で。
「次に赤い実のついた小枝を適度に刺します」
先生役のリリーに、カミラが「はい」と良いお返事をする。
「最後にお好みで小さなリボンをいくつか、大きなリボンもどうぞ」
イリヤから受け取りバランスを見ながら固定する。迷うカミラにイリヤが楽しそうに助言していた。




