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レイチェルとの遭遇・2

 遠回しな会話は、慣れたご令嬢同士ならともかく、自分相手では意味がない。それをやんわりと伝える技術を、リリーはあいにく持ち合わせてはいない。


 レイチェルが興ざめた顔つきになった。これ見よがしにため息をつき、小首をかしげる。


「特別に教えて差し上げますけれど、グレイ様には婚約者がいらっしゃる。とてもお美しい方で、お年上なのにグレイ様のたっての希望でご婚約が整いましたのよ」


 「美しい方」でリリーが思い浮かべるのは、花市に坊ちゃまエドモンドと来たエレノア様だ。あの方より綺麗な人はいないと思う。


「それが、なにか」


 婚約者の話なら先にジャスパーから聞いている、などともちろん言いはしない。

リリーが尋ねると、レイチェルの顔に朱がさした。


「アイアゲートさんがいくら頑張っても、グレイ様のお目にとまる事はないのよ。分かったなら、まとわりついて気を引くような行動は控えることね」


 自分の言葉に興奮したらしく顔の赤みがさらに増す。


「これは忠告ですわ。あなたといるとグレイ様の評判に傷がつくし、迷惑になるの」



 何年か前に取っ組み合いのケンカをした時、坊ちゃまは「相手の言うことを正面から受け止める必要はない。受け流せ」と説いた。しかし性格というものがある。


 リリーは微笑した。自分では感じの良い笑みのつもりでいるけれど、薄ら笑いに見えたらとても感じが悪いはずだ。そこは望むところではないものの、レイチェルがどうとるかは不明。


「評判に傷がつくのが私じゃなくてジャスパー様なら、私の気にするところではありません。忠告するなら彼にすべきでは?『アイアゲートに親切にするのはあなたの為にならない』と」


 少しでも言い返したら、どれだけ言い返そうとも同じ。リリーは思っている事をそのまま口にした。


「婚約者のいる方とできないのは、婚約と結婚だけだと思っております」


 体術で体に触れないのは無理な相談だし、異能の授業もまた同じ。女性との接触を断とうと思うなら、ジャスパーが避ければ良かった話だ。リリーにしてみれば、頼み込んで嫌々引き受けてもらったわけじゃない。


 腹が立ちすぎて声もないレイチェルに、良い機会だから伝えておく。


「侯爵家の令息の恋人になるとか、婚約者に取ってかわるなどという馬鹿げた考えは持ちません。マクドウェル様がジャスパー様とお近づきになるのを、私は邪魔しません」


私の排除は意味がない。


「私が目障りだとおっしゃるなら、そこは諦めて頂くより他にありません。これでもマクドウェル様のお目に入らないよう出来る限り努力をしています。これ以上は無理です」


 きっぱりと言い切ると、レイチェルはいつの間にか白くなっていた顔を更に白くさせた。


「――あなたとは、どうあっても仲良くできそうにないわ」



 レイチェルの言葉に何と返すべきか。リリーは考えを巡らせた。「残念です」と殊勝な顔を作るのは、嘘っぽい。


 ならば「今日初めて意見が合いましたね。全面的に賛同します」は、どうか。余計に怒らせそうな気がする。


「用がありますので、お先に失礼します」


 無難に徹した返答になった。あらぬ方角を見ているレイチェルは、はじめからここには自分ひとりがいた、というたたずまいだ。


 今日の遭遇は無かった事とされるのか。それともレイチェルにますます嫌われるのか。


 どちらにしろ良い方向へ転がりそうな気はしない。リリーは一段深く頭を下げると、レイチェルに背中を向けた。


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