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レイチェルとの遭遇・1

 リリーがひとりで校舎内を行くのは、ままあることだが、レイチェル・マクドウェルの周囲に人がいないのは珍しい。


 いつも共にいるのは子爵家の息女で、リリーには貴族間の交遊関係はわからないながらも、彼女達にはお近づきになりたいと願うお家がグレイ家を含め幾つかあるのだ、という噂だった。



 夏の音楽祭以来、気をつけていればレイチェルと出くわす事はなかった。


 今日はオーツ先生と約束している時間まで間があり、園芸部が手入れをしている花壇にでも行ってみようかと動線を変えたせいで、レイチェルに遭遇する事態となった。


 ここにいるのは見えているはずだから、避けようと思うなら、彼女が左に曲がればいいのに。


 用もないと思われる花壇にまっすぐに向かってくるのは、用がつまりは自分だからだろう。リリーは深く一息ついた。


 あちらの話したい内容に見当がつかなくても、個人的に嫌われている自覚はある。いつかこんな場面があるのではないかと思ってもいた。


レイチェルがひとりきりなのは、予想外だけれど。



「ごきげんよう、アイアゲートさん」


 顎を軽くあげたレイチェルは尊大に見えなくもない。同じく「ごきげんよう」と返すものだという知識はあっても、遣い慣れない「ごきげんよう」は気恥ずかしくて口にしづらい。リリーは一礼するにとどめた。


「これは、なんというお花かしら」

「手前の赤いのがペルシカリア、紫がアスターです」


 どちらも育てやすい花なのでこの花壇に植えられているのだろう。アスターは切り花にして飾る事もあるが、ペルシカリアは草に近い。レイチェルの目にとまることなどない類の植物だ。



「そう。詳しくていらっしゃるのね、さすがに」


 いかにもつまらないといった様子の感想は、皮肉に聞こえなくもない。というより皮肉だろう。「さすがに花を売っていただけあって」を省略しての「さすがに」だ。


 黙るリリーの顔をちらりと確かめ、レイチェルの視線は花壇に戻った。



「相も変わらずグレイ様に付きまとっているのですってね。グレイ様は寛大でいらっしゃるから、直接は何もおっしゃらないでしょうけれど」


「直接は」と言うなら「間接的に」何か聞いていると言いたいのだろうか。先を待つつもりでリリーは口を挟まずにいた。


「わきまえた振る舞いをすべきだ、と忠告する友も持たないのね。おかわいそう、笑われているのもご存知ないなんて」


 「笑われて」誰に。心当たりのないリリーにしてみれば、レイチェルはまるで違う言語を使っているように思える。


 それが伝わったのか、レイチェルは哀れむように目尻を下げた。


「鈍いって単語、お分かりになりまして?」


 うなずくリリーに、ほっと安心したような表情を見せる。


「良かったわ。あまりに鈍いのは、もはや罪ですもの。――そうお思いになりません?」


 ここは悪口であると理解すれば充分だろうけれど、それこそ「この鈍さ」が目の前のご令嬢を苛立たせるのだとも分かる。


このままでは平行線。

「それで、ご用向きは」とリリーから切り出した。


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