貴公子は隠れ家に連れ帰る・1
十一月の一週目には、その秋最初の狐狩りがあると決まっている。公国のキツネ狩りは、躾の良い狩猟犬と毛並みの美しい馬を自慢しあい、田舎で社交を繰り広げる。そのようなものだ。
誰も本気で狐など追いたいとは思っていないし、犬も容姿――ピンと天に向かって立つ尻尾であるとか――が重要視されるようになって久しいため、闘争心にまるで欠けている。
森の中を群れて走る犬を紳士が馬で追いかけ、その後ろをのんびりと淑女がついて行く。
むしろ重要なのは夜の狩猟パーティーで、公都より派手な色合いのドレスや、紳士も飾りの多い服など着て開放的な雰囲気を作り娯楽感を高める。公国貴族にとって、狩りは重要な社交である。
エドモンドはそんな二週間を田舎で過ごし、公都の宮へと戻ったところだ。
エドモンドと家令ロバートの留守の場合、宮は侍従長に任せており、エドモンドはロバート経由で留守中の様子を説明させた。
未だに旅装を解かない若き主人に、ロバートが伝える。
「以上でございます」
「……アレの報告は」
まだ戻ったばかりで、集合住宅の門番の報告も目を通していなければ、ロバートは当然息子のエリックにも会っていない。
花売りのお嬢さんリリーについては、こう言うしかない。
「申し訳ございません。分かりかねます」
今、共に帰宅したばかりで分かるはずもない。などとは口にしない。
「少し出る。お前も来い。馭者はいつもの馭者だ」
まさか。ロバートは瞬きを数度繰り返した。昼過ぎには公都に戻る予定だったが、あれやこれやで遅れて日が暮れての帰着となった。
馬車で二日かけて狩場から帰宅したというのに、これから出ようと言うのか。
「承知致しました」
ロバートは頭を下げた。
「公都も冷えてきたな」
エドモンドが言うとおり二週間ぶりの公都は急に冬らしさを増していた。おまけに空模様も少し怪しい。降りだす前に戻れて何よりだったとロバートは安堵した。
「家はどこまで調っている」
窓の外に目を向けたままで、若主人が尋ねる。
隠れ家の事だ。
ロバートの知人のそのまた知人である音楽家が、伯爵家の専属音楽長になるために、その領地へ越すと耳にし家を買い取った。
エドモンドの意向に合うよう改装中で、出掛ける前にこの二週間分の指示は出したが、予定通りに進んでいるかどうかは分からない。
繰り返すようだが、なにぶん帰ったばかりで確認など出来ていない。明日にでも自分で足を運び、とロバートが考えたところで馬車の速度が落ちた。
ロバートが窓の外に目を移しても、薄暗がりが広がるばかりだ。
「お前を先に落としてやる。湯を沸かして浴室を調えておけ。暖炉に火もだ」
エドモンドが言い放った。




