猫目金緑石
「これが猫目金緑石です。あなたの瞳とよく似ているでしょう」
リリーの手のひらに乗せられた小指の爪より少し大きいくらいの石は、淡く緑色がかった灰色をしていた。
ジャスパーが以前に説明してくれたように、石をゆっくりと転がすと左から右、右から左へと白銀色の光の筋が移動する。
「不思議……。石のなかを移動していくみたい」
飽きずに眺めて堪能したところで、返そうとリリーが指でつまむと、ジャスパーは手を出さない。
「差し上げます」と当然のように言われた。
戸惑って見上げるリリーに、表情を変えずに言う。
「これに貴石としての価値は、ほぼありません。猫目金緑石のなかでも屑石です」
価値があるのは、はっきりとした金緑色の物だけです。この石ではアクセサリーにもなりません。と言い添える。
「ただ、あなたの瞳の色に似ている。それだけです」とも。
金銭的な価値がないのなら、頂いてもいいのだろうか。
すぐ隣でリリーの指にある石を興味深そうに眺めているカミラの意見を求めて、視線を向けた。
「私は石には詳しくないけれど。この石にそういう意味では価値がない事は分かるわ。価値があるとしたら、ジャスパー様が沢山の石のなかから選り分けて下さった、その事だけじゃないかしら」
イタズラっぽく笑う。家庭での躾のよいカミラは、上位貴族であるジャスパーに節度ある態度を取っていたけれど、最近は徐々に打ち解けた顔をするようになってきている。
カミラから見ても受け取って支障はないらしい。せっかくのご厚意を無にするのも失礼にあたる。
あんな約束とも言えないような会話を覚えていてくれたのも、嬉しい。
「そういうことでしたら。ありがたく頂戴します」
石を両手で包むようにして礼を言うと、ジャスパーは軽く頷いた。用は済んだとばかりに教室を出て行く。
「ねえ、もう一度見せて」
言われてカミラに石を渡すと、光にかざす手つきで目の横に並べるようにして、感心する。
「本当。アイアの眼によく似てるわ。さすがジャスパー様ね、丸さまでそっくり」
リリーにしてみれば、自分の眼よりこの石の方が断然美しいと思う。屑石というけれど、金緑石の特徴が薄いだけで、コロンとした丸さも可愛らしい。
石を選り分けるジャスパーはどんな顔をしていたのだろうか。少し見てみたいような気がした。




