ペイジとモンク・2
リリーが驚いたことに、男子生徒ふたりは瞬時にリリーをかばう姿勢を見せた。
「何がありましたか」
飛び込んだ形のままに開け放たれていた入口に立っていたのは、ジャスパーだった。
助けてくれた男子生徒が顔を見合わせ、揃ってリリーに目を移す。
ドアが開いていてもノックをするあたりがいかにもジャスパーらしいなどと、こんな場面なのにのどかな事を考えていたリリーは、目をぱちくりとさせた。
他にこの部屋にいるのは、脂汗を浮かべてうずくまる男子ふたり。
最初から説明できるのはリリーだけ。そしてジャスパーは「何かありましたか」ではなく「何が」と、あったことを前提として問い掛けている。
答えないわけにも、いかない。仕方なくリリーは口を開いた。
「ちょっとゴタゴタに巻き込まれそうになったところを、こちらのお二人が助けてくれました」
ジャスパーがすっと目を細めた。助けてくれた二人は女の子の名誉を守る為か、口を結んでいる。
「『巻き込まれそうになった』ですか」
「そうなの。多少、見解の相違はあるかもしれない」
普段より強いジャスパーの眼差しが刺すようで、視線を床に落とせば、リリーの背中に触れているペイジの手が励ますように上下した。
「『多少』と。それは後にするとして。何か手伝う事はありますか」
これ以上の追及は無意味とばかりに切り上げたジャスパーが、立っていた男子に問う。
「俺たちでコイツらを職員室へ連れて行きます。後をお願いできますか」
彼等の方が学年が上だと思われるのに、ジャスパーに対する言葉遣いは丁寧だ。ジャスパーがとても優秀な生徒であり、高位貴族だと知っているのだろう。
気が抜けたようになっているリリーをよそに、三人で話を進めていく。
「彼女、アイアゲートさんと同じクラスのグレイです。先輩方とお見受けしますが、差し支えなければお名前を」
真っ先に飛び込んで暴漢を蹴った先輩男子がモンク、助け起こしてくれた彼はペイジと名乗った。
さらに二言三言打ち合わせて、モンクがうずくまる男子を軽々と引き起こした。
「災難でしたね。どうぞお気をつけて」
ペイジは先輩らしからぬ丁寧な口調で言い、リリーの身体をきちんと座れるよう支えてから立ち上がった。
「ありがとうございました」と礼を述べると、ペイジは不要だと首を横に振り、労うような微笑を浮かべた。
ペイジとモンクが荷物のように暴漢ふたりを引きずって去るのを見送る。揃って立つと、ジャスパーよりもモンクの背が高く一回り体が大きい。
だからためらうことなく飛び込んでくれたのだと、改めて心のうちで感謝する。
急に静かになった部屋には、リリーとジャスパーが残された。見おろされているかと思うときまりが悪く、少し痛む肩に手をやった。
「痛むのは肩だけですか」
ジャスパーが膝をつき、肩に手を伸ばす。
意図せずして、びくっとリリーの肩がはねた。
「これは、失敬」
一瞬目を見開いたジャスパーは、伸ばした手を戻した。




