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貴公子は隠れ家を所望する・2

「見つかったか」


 侯爵家の舞踏会から帰宅し上着をロバートに渡すエドモンドの視線は、テーブルの上の花にあった。


 今日の花束は白に緑が多い。日によって感じが違うのは、リリーの気分なのか仕入値によるのかは、ロバートは知らないしエドモンドも聞かない。


 見つかったか、とは「隠れ家」の事だ。まだ指示を受けて一週間も経っていない。そうそう見つかるものでもない。


「候補はいくつか。近日足を運ぶつもりでおりますが」


 口の固い知人や出入りの業者――セレスト家関連では「隠れ家」でなくなる。ロバートのだ――に声をかけ、売りたがっている又は相場より良ければ売ってもいいと考える家主を探して、三・四軒の候補が上がった。


「私も行こう」

「エドモンド様が、でございますか」

「明日は急ぎの用もないだろう」

「明日」


――さすがにそれは明日は難しい。どの家も現在人が住んでいる。


「もうこの時間ですから、明日はさすがに難しいかと存じます。どこも住人がおります」


不服なのだろう。若き主人はタイを引き抜くと無言で浴室へと消えた。


 辺りに香水の残り香が漂う。女物だ。いつもの女伯爵のものではなく、ロバートには女性の顔が思い浮かばない。


 これだけ香るというのは、踊るのみならず馬車で送ったか、寄り添うような事をしたのだろう。


が、ベルトを外した様子はなく服に皺もない。帰宅も早かった。



 エドモンド・セレストは公国を治める大公セレスト家の次男。次の大公には兄がなる。エドモンドはセレストを名乗っているが、既に公爵位を受け取っている。


御年(おんとし)二十二歳独身で、セレスト家の三兄弟の内で一番の美男子と、上から下まで公国女性の人気を一手に集めている。


 それだけに家探しなどで顔を見せては要らぬ騒ぎを起こしかねない。ロバートとしては、物件を決めて住人が立ち退いてから案内したいところだ。


ロバートがベッドメイクを終える頃、髪を拭きながらエドモンドが浴室から出て来た。


「行きに見かけた」

唐突だが、リリーお嬢さんの事だろう。


「はい」

「また作り笑顔をしていた」


 息子のエリックから聞いた中年紳士を思い浮かべるが、他にいくらでも似たような紳士はいるのだろう。


「あれの作り笑顔は見事だな。あれでは誰も分からないだろう。――もういい下がれ」


投げ渡されたタオルを受け取り、背を向けた主人に一礼する。


――誰もわからない。何が。

それが作り笑顔だと言うことが。それよりもお嬢さんが困っていることがか。


この主人には「分かる」のだろう。

ロバートには主人の帰宅が早かった理由がわかる。


 あの角にひとり佇むリリーが気になり、貴婦人とゆっくりと過ごす気にはなれなかったのだろうと。



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