ジャスパーの心模様・1
成績優秀者は職員室前に貼り出される。
入学して初めての試験で、トップに立ったのはジャスパー・グレイ。
誰もが納得の成績だ。その後も貴族子弟が続き、十五位にリリー・アイアゲートの名があった。カミラはちょうど載らない二十一位で、リリーと大差はない。
「アイア、すごいじゃない。女の子では三番だし平民でも五番よ」
貼り紙を眺めながら小難しい顔になっていたリリーを励ますように、カミラがポンポンと背中を叩いた。
「うん、ありがとう」
眉間にシワを寄せていたと自覚して、リリーは努めて笑顔を作った。
オーツ先生の異能の授業では「今日はお相手を代えましょうね」と言われない限り、組み合わせが決まりつつある。
カミラはスコットと。リリーはジャスパーと。
ジャスパーと組みたい女子は多いかと思いきや、能力差にしり込みするらしく、この授業では誰も近寄ろうとしない。
身体能力系同士で組むときには、二番手と目されるスコットがジャスパーと組むことが多い。
異能に関しては端から見ても出来不出来が分かりにくいが、スコットは「モノが違いすぎて、悔しいという気持ちもない」と、試験結果を前にしてカミラに語っていた。
今日も階段教室の上方の席にカミラ、下段端のほうにリリーと、自由席では珍しく離れた位置で授業を受けていた。
オーツ先生が、能力をまだうまく使いこなせない生徒にコツを教えている間に、ジャスパーがリリーに顔を近づけ話しかけた。
「試験の結果ですが」
小声なのはオーツ先生が些細な声も拾うからだ。
「なぁに? そう言えばまだ言ってなかった。一番おめでとうございます」
リリーが額をつけるようにして言うと、ジャスパーが少し身を離した。
口の聞き方も態度も少し馴れ馴れしかったかと反省し、リリーは姿勢を正した。
成績表を取りに来たエリックと、先ほどちょうど行き合い立ち話をしたせいで、浮わついてしまっている。
「また後でね、リリー。少しだけど甘いものを持って来たよ」なんてエリックが喜ばせたりするから。
「ありがとうございます。それより、あなたはもっと上位に来ると思っていたのですが」
律儀に礼を述べ真顔で言うジャスパーに、それは買いかぶりだとリリーは首を横に振ってみせた。
「――どこかに対し、遠慮したのでは」
続く思いがけない言葉に、思わず目が丸くなる。
ジャスパーの顔つきを見れば、冗談を口にしているわけではないと分かった。
この様子では、ただ否定をしても信じてもらえそうにない。精神系の使い手でもないのに嘘がつきにくい。リリーは内心ため息をついた。
あまり聞かせたい話でもないけれど、仕方がない。
「子供の頃から学んでいる方々が上位に来るのは、自然な事ですよね。でも私は平民なので『なんとか学院に入れる程度の学力だったのに、先生方のご指導のおかげで成績が伸びました』っていうのが良いと思いました。そういうストーリーの方が感動的かなって」
ジャスパーの返事がないのは、説明が分かりにくいからか。ここまで話せば、どこまで話しても変わらないと諦めて、リリーは考え違いを告白することにした。
「加減したつもりだったのに、思ったよりも成績が良くて。みんな私と同じ事を考えて、調整したのかもしれない。もう少し間違えるべきだったわ」
また口調が親しげに戻ってしまっている。
「エリックには『そうリリーの思うように上手くいくとは思えないけど』って言われてたの――その通りだった」
肩をすくめるようにして打ち明けても、まだジャスパーは無言だった。




