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エリックとロビン・1

 リリーが熱を出したとケインズ家へ知らせが来たのは、入学して二ヶ月が過ぎた頃だった。


 ちょうど在宅していたエリックは、すぐに家を出た。


 本来ならアイアゲート家へ連絡が入るところだが、今月に入ってすぐにアイアゲート夫妻は息子の住む地へと居を移した。それに合わせて保護者としての連絡先はケインズ家へと移っている。



 自家の馬車で学院に着いたエリックは、職員室より先に医務室へ行くことにした。


 ここへ来るのは入学式以来。広大な敷地にある寮と講堂の位置は知っていても、学舎のどこに医務室があるのかまでは把握していない。


 通りがかりの生徒にでも尋ねようと探すと、建物の入口に人待ち顔で立つ男子生徒が目についた。


 整った顔立ちと、隙のない身だしなみが優秀さを感じさせる。貴族子弟だろう、それも高位の。

エリックはそう当たりをつけた。


 ざっと自分の服装を確かめる。馬車に乗っていただけとはいえ、ボタンのかけ忘れが無いとは限らない。生徒がここまできちんとしているのに、父兄が見劣りするわけにはいかない。


が、男子生徒の視線はエリックの手元へ止まった。


 二度見されたが、これは……どうしようもない。

内心の気恥ずかしさを無視して、エリックは彼に声をかけた。



「失礼。医務室へうかがいたいのですが、どちらでしょうか」

「アイアゲートさんのご家族でいらっしゃいますか。級長のジャスパー・グレイです。よろしければご案内します」


 目礼するジャスパー・グレイ。

人待ち顔は自分を待ってのことだったのだと納得した。


 グレイと名乗るなら侯爵家。黒髪と聞く後嗣は彼かと、先に立って歩く男子生徒を、エリックはさりげなく観察した。


 背は同じくらい。少年らしくまだ体つきは細いが、卒業する頃には逞しくなるだろうと想像がついた。代々優秀な軍人を輩出するグレイ家らしく、ジャスパーもまた折り目正しく堅い雰囲気をまとっている。


「エリック・ケインズです。リリーがお世話になります」


 年下とはいえ侯爵家と分かってしまった以上、子供相手のような態度は取りづらい。


「――ケインズ様」


 ケインズの名まで知っているとは思えない。

彼の疑問はアイアゲートと名乗らない点だろうと解釈して、先回りする。


「リリーの両親は転居し公都を離れましたので、当家が連絡先になっております」


「お身内ですか」

「そのようなものです。リリーの家庭教師も務めましたので」


 この聡明な少年にどこまで説明すべきか、と考えるうちに医務室へと着いた。


「職員室へも行かれますか」


 問われてエリックが頷けば、「では、ご案内します。この辺りにおりますので」と、ジャスパーは少し先の窓辺を目で示した。





「入るよ、リリー」

ノックしてエリックはドアを開けた。


 返事がないので寝ているのかと思えば、リリーは枕を背もたれにして半身を起こしていた。


 救護院へ行った雪の日を思わせる光景に、エリックの胸が微かに痛む。あの日より体つきはしっかりしたのに、ぼんやりとした横顔はリリーをどこか頼りなく感じさせた。


「リリー、体調はどう?」


 呼びながらエリックは、手に持っていた物をぎゅっとリリーの顔に押し付けた。ジャスパーが二度見していた物だ。


 持って歩く間が恥ずかしかったけれど、役に立ったと思う。


「わっ」


 慌てた様子で顔に手をやったリリーが、今気がついたと見上げるのに合わせて、微笑んだエリックは、子供にするように頭を撫でた。


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