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貴公子は隠れ家を所望する・1

エドモンドの挙げた条件は細かかった。


 リリーの足で歩いていつもの角から三十分以内。治安の良い場所。止めた馬車が通りから見えない庭の造り。


主寝室とは別に寝室がひとつ以上。湯がすぐに出る浴室付き。住み込みの使用人は置かないので、狭い邸宅。


外の喧騒が伝わらないよう壁は厚く。全ての部屋に暖炉付き。簡素で構わないが調理場も要。


「内装は任せる。目に(うるさ)くなければ、それでいい」


 条件を書き出した一枚の紙をロバートに渡しながら、言い添える。カリカリに焼いた薄いトーストに指を伸ばす公国一の貴公子と名高いエドモンド・セレストの仕草は、優雅の極みだ。


 常と同じだったはずの朝食のテーブルが、瞬時に非日常となった。「何故こんなことになったのか」と家令ロバートの理解はまだ追い付いていない。


 朝食時は、本日の予定の確認以外会話はない。

それもロバートが伝え、変更や要望がなければエドモンドは聞くだけだ。


日によっては、頷きもしない。


 何事もロバートに任せて原案を作らせてから、修正を加える事が常のエドモンドにしては珍しい。

しかし主人が一から考えた方が仕事が難しくなるのだと、ロバートは今知った。


「これは、お引っ越し先にしては手狭ではございませんか」

「いや、引っ越しはしない。隠れ家だ」


 隠れ家、何のために。何からも隠れる必要のないこの若き主人が。―――丸い黒い玉。


「お嬢さん、ですか」


 エドモンドがロバートと視線を合わせた。今わかったのか、と言わんばかりだ。


 あの日、いやにこの主人の態度があっさりとしていたのは「今晩だけ」連れ帰るかと聞いた事と、連れ帰る先がエドモンドの宮ではない事がお気に召さなかったからなのだろう。


結果がこれ。連れ帰る先の「隠れ家」だ。しかし、とロバートは紙面に目を落とす。


「難しい家探しになりそうですね」

「条件そのままの物が見付からなければ、改装すれば良い。それくらいの時間はやろう」


 それは有り難くも寛大なお申し出で。と返せば嫌味もしくは皮肉に聞こえるだろうか。

思ってもロバートは例によって顔には出さない。


「借りますか。それとも購入を」

「大家と繋がりが出来るのは面倒だ。買い取れ」


「上手く見付かりますかどうか」

 この家探しが困難である事は目に見えている。ロバートは無駄とは知りつつも、一応の予防線は張っておく。


「立ち退かせればいいだろう。金なら積め」


事も無げにエドモンドが切り捨てる。やはり無駄だった。


「承知致しました」

 今日から取りかからねばなるまい。これが最優先事項だろう。ロバートは、すぐに行動を起こした。



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