個性的な教師による授業・2
いち早く男子生徒がすぐ隣までやって来た。
カミラと共にリリーも彼を見る。
「カミラ・シーゲルさん、僕と組んでもらえますか」
丁寧に申し込んだのは、同じクラスのスコット・ポロック。先日ダーツをした時に、リリーに「もちろん、どうぞ」と言ってくれた男の子だ。
級長は当然のようにジャスパー・グレイに決まったけれど、盛り上げ役ならスコット・ポロックだと皆思っているだろう。まだ性格が分かるほどの付き合いはないが、明るくいつ見ても楽しそうにしている印象があった。
「わ、私で良ければ」
カミラの声が上ずる。ほっとした顔になっているのは、カミラだけでなくスコット・ポロックも同じだった。
その様子を微笑ましく眺めていたリリーは、ハッと気がついた。
和んでいる場合じゃなかった。身体系と精神系の生徒がちょうど同数とは限らない。
のんびりしていたら、あぶれてしまいかねない、と。
見回せば、気心の知れた男子同士で組んでいる生徒が結構目についた。女子が余ってしまいそう、そしてそれは私なのでは。
ドキドキと急にうるさくなった鼓動を抑えようと努めつつ、空いている人を探すと、ジャスパー・グレイと視線がかちあった。
――待ってなんていられない。
「ちょっと行ってくる」
言い置いてリリーは最前列の端に立っていたジャスパーの元へと、通路を駆けおりた。
「まだ、一人ですか」
意気込んで尋ねるリリーに「敬遠されたようで」とジャスパーが頷く。
「身体系ですか」
肯定するジャスパーに「よろしくお願いします!」と、リリーは勢いよく頭を下げた。挨拶をし心底安心したところで、オーツ先生が手を叩いた。
「まだ決まってないコは?」
手を挙げたのは身体系の生徒数人で「まとめてワタクシが引き受けるわ」と呼び寄せ、次の指示が出た。
「それじゃ、まず『好きなお花』を読むところから始めましょ。精神系さんは女の子が多いから、身体系さんはお花を相手に贈るような気持ちで、思い浮かべてあげてね」
「まだ初めだし慣れていないから、お相手さえ良ければ好きな形で読み取っていいわよ」と付け加える。
「好きな花」くらいなら、指先が触れれば読む自信はあるけれど。他の人はどうだろう、とリリーはまず周りの様子をそっと見た。
男子同士は少しも遠慮がない。がっしりと抱きついている。
女子と男子で組んでいるふたりは、男子の手を握りしめて見つめあっている組、後ろから座る男子の頭に額をつけている組と様々で、しかも皆照れることなく本気で取り組んでいる。
どうしたものか。ジャスパーに視線を戻せば、彼はじっとリリーを注視していたようだった。
「私は読まれる側なので。お任せします」
ジャスパーは普段は「私」を使い、教師に向けては「僕」と言う。理由は定かではないけれど、ジャスパーの「私」は彼を大人びて見せると、リリーには感じられた。
「それでは、胸に手をあててもいいですか」
服の上からでも読める。本当は指一本でもいける気がするけれど、目立つことは避けたい。
ジャスパーと向かい合い、胸ポケットの辺りに触れた。




