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伯爵令嬢レイチェル・マクドウェル2

 カミラと選択科目を全部合わせたわけではないので、リリーがひとりで教室を移動することもある。


 他の女子生徒がいる時はなんとなく一団となって行くが、何かの都合で別行動になるのも珍しくはない。


 その日もたしかそんな感じでひとり歩いていたのだと思う。


 お昼、教室でパンを噛るつもりで戻る途中。

レイチェル・マクドウェルとそのご友人に、真っ正面から出くわした。



 上級者とすれ違う場合、道を譲るのが学院内でのマナーである。どなたが上の学年かも分からないリリーは、とりあえず誰に対しても、立ち止まり脇に寄って通りすぎるのを待つ、という対応を取っていた。


 この時も深く考えずにそうした。

ちらりと三人が目配せしあい、そのまま通りすぎるかと思いきや、少し手前で足を止めた。


「あなた、アイアゲートさんとおっしゃるのね」


 よく響く声でいきなり名前を呼ばれて、リリーは驚いた。クラスも違うのに平民である自分の名を、まさか覚えられているとは思わなかった。


「はい」

「おうちは準爵家でいらっしゃるとか。つまりあなたは平民」


 レイチェルは「それでよろしいかしら?」とでも言うように念を押した。準爵位が一代爵位だとは、学院に通うような子なら知っている。つまりアイアゲートの父は準貴族だけれど、リリーはまるきり平民ということ。



 話の流れの予測がつかないので「はい」とだけリリーが返すと、待ちきれないかのようにレイチェルの隣の少女が口を開いた。


「そんな方が、グレイ様をジャスパー様とお呼びするのはいかがなものかしら」



 スカート丈でなければ、馬のしっぽのように高い位置でまとめただけの雑な髪型へのお小言だろう、と当たりをつけていたリリーは、予想とかけ離れた言葉に声が出なかった。


「伯爵令嬢であるレイチェル様が礼節を重んじて『グレイ様』とお呼びになるのに、馴れ馴れしい呼び方をあなたがするのはおかしいとは思われませんの?」


 そう続ける少女に答えたのは、リリーではなくもうひとりのレイチェル様のご友人だった。


「何を言っているの。おかしいと気付くような方ではないから、そんな図々しくも失礼な真似ができるのよ」


 ねえ、とリリーに同意を求めるように浮かべる笑みは、どこか嫌な感じがする。



 どうも誤解があるようだ、とリリーは思った。

ここで正していいものかどうか迷うけれど、リリーにも言い分はある。


 ジャスパー・グレイをジャスパー様と呼ぶのは、何も自分だけではない。クラス全員だ。


 同じクラスにグレインさんがいて、グレイとグレインが紛らわしいと初めに口にしたのは、どの先生だったか。


 そこでジャスパー・グレイが「家名で呼ばれることに拘りはありませんので、ジャスパーでかまいません」と申し出た。


 その姿があまりに颯爽としていたので、他に話が伝わる時に「家名にこだわりはない」と変化し、「侯爵家に拘りがないなんて、さらりとおっしゃって……実力があるからこその自信よね。格好いい」となったのだ。


 遠慮をしていたのは最初だけで、すぐにクラス中がジャスパー様呼びになり、今ではすっかり「グレインさん」と「ジャスパー様」である。


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