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男の子の授業・2

「よろしければ先生のご指示に従って、僕が彼女に手ほどきをするのは、いかがでしょうか。彼女がいることにより、他の生徒の稽古にも熱が入ると思いますが」


 ちらりと同級生に視線を送ったジャスパーが口の端に笑みを浮かべると、教師の表情がゆるんだ。


「そうですね。男という生き物は女の子がいると張り切るものですからね。わかりました、グレイ君の評価は『助手』として付けましょう。特優と同等ですから傷にはなりません。君に感謝しますよ。勇気ある女生徒のやる気を摘まなくて済む」


 リリーにしてみれば勇気と言うほどのものでもないけれど、話がついたらしいとみて双方に一礼した。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」







 体術は全く初めてだと伝えたリリーに、ジャスパーは拳の握り方から始めた。


 以前「わたしも男の子みたいに『えいっ』ってしたい」と言ったリリーに、坊ちゃまエドモンドは「中途半端に覚えてはケガの元だ。それにお前が少しばかり鍛えたくらいで倒せる相手などいない。磨くなら逃げ足を磨け」と、取り合わなかった。


 つい思い出してしまい打ち消そうと努めるリリーに、「初回なので」と前置きしてジャスパーが尋ねた。


「なぜ体術を? 女子で好成績を修めるのは難しいと思いますが」


「学院を出たら国の仕事に就きたいと思っています。今のうちから少しでもしておいた方が、有利かと思って」



 アイアゲートの父は公国軍人だった。

外交部にも典礼部にも働く女性はいるが、皆身分のある方ばかりだと聞く。


 その点軍部は出身にこだわらず、なかでも警備部は職務の内容的にも一定数女性が必要とされる。学院卒であればまず入れるだろうというのが、父の見立てだった。


 そして一年間入る軍学校では、体術は必須科目だ。先に少しでも慣れておきたいと考えるのは、当然のこと。



 そんな説明は全て省略したのに、「なるほど、志望先は軍部ですか」とあっさりと看破された。


 思いきり目を見開いたリリーに「あそこは実力主義ですから、基本的には」と補足までする。


「とはいえ女子には男子と同等までは求めないはずです。一年してみて、不足するようでしたら更に一年。体術はそれで充分でしょう」

 

 事も無げに口にされたけれど、それは。リリーは「まさか」と思いつつも、尋ねずにはいられなかった。


「それまで、教えてくれますか?」

「先生より助手を拝命しましたので。――理由がそれだけでは納得できませんか」


ジャスパーが辺りを憚るように、少し声を落とす。


「実のところ、体術を選択したのは授業の進め方を見るためです。体格も技術も差の大きい集団をどのように教え、一年でどこまで上達すれば良しとするのか、それに興味があっただけです。あなたを教えながらでも、充分に知ることができますから、気遣いは無用です」


 出来る人は考えることが違うとリリーは感心した。彼が体術の授業を選択した理由は意外なものだった。が、彼の申し出がありがたい事に変わりはない。


「何も知らない私が一年でどこまで出来るようになるかも、ぜひ見てください」


 リリーの言葉が思いがけないものだったらしく、ジャスパーはひとつまばたきをしてから、真顔で頷いた。


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