男の子のお遊び・1
放課後。まだ話している生徒、自宅が遠く早々に帰り支度をはじめる生徒といる中で、数人の男子がどこからか樽を教室へと持ち込んだ。
食用の油が入っている大きさのものだ。
カミラもリリーも揃って寮生活なので、帰りを急ぐこともない。二人でしていたおしゃべりを止めて、何が始まるのだろうと眺めた。
教室の後ろの壁に机をひとつつけ、その上に樽を据えた男子が、小さな矢のようなものを近くにいた数人の生徒に手渡す。
「ダーツだわ」
それが何か分かったらしいカミラが口にした。
紳士が暇潰しに楽しむもので、詳しくは知らないと前置きしながらも、リリーに説明する。
的の大きさや点の付け方はまちまちだけれど、手に持った矢を投げて、当たった場所が的の中央に近ければ近いほどよいのだと。
「ふうん」
リリーは興味津々で眺めた。
どうやら今のところ参加者は五人らしい。それぞれが手に矢を持っているが、まだ本数には余裕がありそうに見える。――ちょっとしてみたい。
「それ、女の子は入っちゃダメですか」
「はい」と手を挙げたリリーに驚いたのは、男子だけではなくカミラもだった。女の子なのに口まであんぐりと開いている。
しばらくの間黙って男子同士で顔を見合わせていたものの、矢を配っていた男子生徒がにっこりとした。
「いいよ、もちろん。やり方はわかる?」
「投げる順番を最後にしてくれたら、みんなの真似をするわ」
リリーの返事に「それでいい」と矢を渡してくれる。
「アイアったら、大胆ねぇ」
ようやくカミラが一言発した。
何が大胆なのか心当たりのないリリーが内心首をかしげていると、男子のひとりが「一番になった人は皆に言うことをひとつ聞かせる権利ね」と言い、反対意見の出ないうちに、そういう流れとなる。
矢を持つ男子五人のうちには、ジャスパー・グレイの顔もあった。誘われて一瞬考える様子を見せていたが、参加することにしたらしい。
「じゃ、僕から」
リリーに「いいよ、もちろん」と言ってくれた男子が投げると、的の中心とはいかないものの、ほどよい所に刺さった。
順に投げ、一番上手いのはジャスパーだ。ほぼ中央に刺さっている。
「アイア、頑張って」
カミラの声援を受けたリリーが投げる。
樽の外にそれたりはせず「本当に初めて?」と隣に立つ男子に聞かれたところをみれば、まあまあなセンなのだろう。リリー自身は失敗したと思っていても。
このゲームは何度か投げて合計点を競うものだ。
「じゃあ、二投目いこう」と、最初に投げた男子が位置についた。指や手首の動きを確かめる姿は、徐々に本気になってきたのだと感じさせる。
「投げるのはこれじゃないと、いけないの?」
彼が投げる前にと、リリーは急いで尋ねた。
「え?」
動きを止めてリリーに向けた顔には、何を言い出すのかと書いてある。
「みんなと違って慣れていないから、ちょうどよくいかないの。ダメじゃなければ、これでしたいんですけど」
リリーが手にのせた物を見せると、男子生徒が揃って絶句した。




