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ジャスパーと赤毛の同級生・2

 行くべきかを迷って結局ジャスパーは図書室へ来た。


 予定の変更を嫌った事と、赤毛の同級生アイアゲートが、その席に自分が座ると承知していて接点を持とうとしているのなら、そんな考えを摘んでおこうと思ったためだ。



 入学直前に正式に侯爵後嗣となったジャスパーは、同級生の誰よりも身分が高い。


 赤毛の平民までもが知っているとは思わないが、取り入る気持ちがあるなら無駄なことだと、早めに知らしめたい。



 いつもの席に向かうと、そこはまるで今日一日誰も使わなかったかのように整然としていて、人のいた気配を感じさせなかった。


 ジャスパーにしては珍しく僅かばかり戸惑いながら、椅子をひいた。


 腰をおろした木製の座面はいつもの冷たさで、他人の体温が伝わったりはしない。

先ほどの横顔は見間違いかと思うほど。



 予習をするジャスパーが集中力に欠けることを自覚していると、部屋の奥から来た人が足音もなく滑りでるところだった。


 自分以外に人がいたとは。視線の先にいたのは教材を抱えたアイアゲートだった。


こちらを見ないまま軽く会釈し、ドアに手を添える。



「先ほど」

ついジャスパーは声をかけた。


 アイアゲートは表情を変えずドアから手を離し、身体ごとジャスパーへと向いた。


「先程この席にいらしたように思いましたが、なぜ奥に移動を?」


「お目汚しをして申し訳ありません」

驚きを見せつつすぐに口から出たのは謝罪だった。


「いえ、そうではなく。席が決まっているわけではありません。移動される必要はなかったのでは」


 我ながら詰問調だと感じるジャスパーに、アイアゲートはためらう様子を見せながらも話す。


「こちらの席で勉強なさるお姿を拝見したことがあり、ここから見える景色はどのようだろうかと思って、座ってしまいました。すみません」


重ねて謝るとそのまま立ち去ろうとする。


「いかがでしたか」

口から出た声は、ジャスパーが自分でも意外に思うほど柔らかかった。


 意図をはかりかねたらしく唇をきゅっと結ぶ同級生が、歳より幼く見える。


 ジャスパーは机に右肘をつき顎をのせ、くだけた姿勢でアイアゲートを見つめ直した。


「この席の感想です」


 アイアゲートの目元がゆるんだ。ああ、という表情になる。


「西陽が入らないのでテーブルに反射がなく、適度に窓の外から人の気配があって。自習室で遮断されてひとりになるより、これくらいがお好きなのかと思いました」


 それは席の感想ではないと思ったが、別段嫌な気分にはならなかった。


「引き留めて失礼しました」

「いえ、お先に失礼します」


 頭をきれいに下げて出ていくアイアゲートを、肘をついたまま見送る。



「少し思い上がりましたね」

 席に座っていたアイアゲートには何の意図もなく、ふとした興味だったと知れば、自分勝手な勘違いが馬鹿馬鹿しい。


 入学してそれとは気付かないうちに肩肘を張っていたようだと自覚して、ジャスパーは目を閉じた。


ひとりになった図書室に、微かに花の香りがした。


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