ジャスパーと赤毛の同級生・1
「やっぱり。ジャスパー様はアイアを見てるわよ」
リリーをつついたカミラが、自信たっぷりに口にした。
次の授業のために教室を移動している途中だ。クラス内では、まだお互い様子見の状態で、カミラの他には話す相手もいない。
「それ、知ってるから。先に自分が見てるから視線を感じた相手がこっちを見るだけよ」
だから彼と目が合うと感じるのは、カミラが見ているせい。周りを歩く他の人に聞かれないように教科書で口元を隠して、ひそひそと返すリリーに、カミラは引かなかった。
「確かに私がジャスパー様を見てるのは認める。でもジャスパー様が見てるのは、私じゃなくてアイアなんだってば」
どうしてもそういう事にしたいのね。リリーは諦めて肩をすくめた。
そんなことを繰り返し聞かされたら、意識しちゃうじゃない。そう思いながら。
図書室は自習室のように、ひとつづつ席が仕切られているわけではない。
混んでくれば他の生徒と相席になるのだが、四人掛け六人掛けの大きなテーブルに高位貴族であるジャスパー・グレイが席をとれば、同じテーブルにあえて座ろうという者はない。
愛馬の世話を終えたジャスパーが、外庭から何気なく図書室に目をやると、よく自分が座る位置に赤毛が特徴的な同級生の姿があった。
何かを書きとめているらしき横顔。
離れた位置から見ても、ふっくらとした唇は赤く、窓と逆の側に髪をまとめているせいで、長い首がより華奢に見える。
真横から眺めたことはなかったが、正面から見るより肩が薄い。他の女生徒と比べて体格はいささか劣るとジャスパーには感じられた。
まだ入学して十日と経っていない。にもかかわらず、男子寮の食堂で順位付けをしていた同級生の顔が不意に思い浮かぶ。
「俺はサラが一番だと思う。かわいいし笑った時にエクボができるのがいいっ」
「それならニコルだよ、断然ニコル。胸が大きくて柔らかそうな体がいいよ」
「アイアゲートがそそるって。細さの割には意外に胸もあるし」
十五歳の男子が集う放課後など、こういうものだろう。離れた席にひとり座るジャスパーは若干の呆れを混ぜて、黙って耳を傾けていた。
楽しげに騒ぐまだよく知らない彼らを子供じみていると感じつつ、こういった雰囲気を知るためにあえて入寮したのだと実感しながら。




