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初めての学友そしてジャスパー・グレイ

 焦げ茶色の髪に薄茶色の目をしたカミラは、リリーにとって学院で初めての友達だ。


 入学説明会で科目の選択があり、選び方が分からずまごつき困っていたところに「私もよくわからない」と声をかけて来たのが彼女だった。


 近くにいた「兄が上の学年にいる」という級友をカミラが強引に巻き込んで、何とか科目を決めたのをきっかけに親しくなった。



「原則として学院内に階級意識を持ち込まない」と規則にあるものの、階級や育ちを知っていたほうが付き合いやすいものだ。


「『原則』とは『絶対』ではない」つまり学院内に階級格差は在ると判断したリリーは、初めて出来た友人に自分から告白した。


「私、平民なの。それでよければ仲良くしてもらえると嬉しいのだけど……」


カミラは、知っていると答えた。


「三代続けての入学を果たしたアイアゲート様のご長女でしょう。うちも私で三代目よ。父がさきほどお父様にご挨拶をさせていただいたわ」


 リリーの知らないところで、そんなことがあったらしい。


「うちも同じく準爵家なの。こちらこそ、よろしくね」

 笑うと目がなくなるような親しみやすい顔に、リリーの気持ちも和んだ。




 本当は準爵家の娘でもないのだけれど、それをわざわざ他人(ひと)につたえる必要はないと、エリックは言った。


「準爵位はほぼ平民と同じ扱いなんだから、それより落とさなくていいんだよ。特にリリーは女の子だから、僕には思いつかないような問題も出てくるかもしれない」


と説明し付け加える。


「ケインズも大した家ではないけど、由緒だけはあるから、なにかに困ったら早めに教えて。申し入れ程度で解決しようと思ったら大事(おおごと)になる前だよ」


 ケインズはエリックの家名だ。「エリックがお世話焼きになっている」と、リリーが笑うと「心外だ」という顔で念を押された。


「嫌な事や困り事は、ひとりで抱えちゃ駄目だ。アイアゲートさんか僕に必ず相談して」


 リリーが「必ずそうする」と約束するまで、エリックは何度も繰り返した。







 入学式で新入生を代表して言葉を述べたのは、侯爵家令息ジャスパー・グレイだった。


 同級生より頭半分背が高く、まっすぐに背筋の伸びた立ち姿は、見事な黒髪もあって人目を引く。


 同じ新入生とは思えないほど堂々としており、保護者からは「さすがお血筋だ」という声が上がっていた。


 彼の耳にも称賛の声は届いているだろうに、眉ひとつ動かさない。リリーからすれば別の世界の人だ。同じ場所で学ぶ事に実感が持てなくて、じっと彼の顔を見続けた。


 よどみなく挨拶を終え、拍手のなか壇上から席に戻るジャスパー・グレイが講堂内を見やる。はからずも視線が交差した。


 失礼なほど見てしまったと焦ったリリーが慌てて視線を外し、そろそろと戻すと彼はもうこちらを見てはいなかった。


そうやってリリーの学院生活は始まった。


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