花売り娘の進路相談・1
救護院にいる間にリリーは十三歳になった。
眼も治り体調も戻った。
ここでは皆がリリーが独りになった経緯を知っている。周囲の目が気になるだろうからと配慮され、年の変わり目に別の救護院へと移った。
住む所をなくし、頼れる身内もない。
リリーは大人の助言に素直にしたがった。
トムのおばさんにお金は預けてあったけれど、数ヶ月も生活をすればなくなる。では花売りをと思っても、前と同じ場所では好奇の目にさらさられ、今まで通りに働く事は難しい。
「あんたが独りだと思ってつけこむ男は、幾らでもいるよ。花売りに戻るのは、私は反対だね」
市場からかなり離れた救護院へも度々様子を見に来てくれるトムのおばさんに、そんな風に強く反対されたら、リリーには何も言えない。
「まだ、住み込みの女中のほうがマシなんじゃないかい? 亭主に先立たれた小金持ちの老婦人かなんかの家を、気長に探したらどうだい」
男のいる家は絶対に駄目だと、念を押された。「救護院へは仕入れすぎて残った肉を置いていくから、あんたが追い出されることはないからね」と言い置いて、トムのおばさんは帰って行った。
エリックも学校の帰りに毎日のように顔を出す。お互いにロバートおじ様のことは、一言も口にしない。
ありがたくも不思議で。救護院に働く人にそう漏らせば「あの年頃の男の子は、外で父母の話はしたがらないものよ。反抗期って知ってる?」と「反抗期」を教えられた。
私に気を遣ってのことじゃないなら。リリーは、ほっとした。
あの雪の日から四ヶ月。暖かくなる季節に、教会から救護院へとリリーを訪ねる人があった。
いかにも聖職者らしい男性と応接室で向かい合わせに座ると「お元気そうで何よりです」と微笑まれた。
見覚えのない方だけれど、事情をよく知っている様子だ。おそらく噂の的になっているのだろうとリリーは想像した。
「養子に入る気はありませんか」
男性は挨拶もそこそこに、そう口にした。
長く公国に仕えたアイアゲートさんとおっしゃる初老のご夫婦が、子供を引き取りたいと願っている。お歳なので小さな子はつらい。何もかも自分でできる歳で家名を名乗ってくれる女の子が希望だと、説明する。
「ひとつ条件があります。それが難しくて、なかなか見つからないのです」
「何ですか」
他の人に難しいなら自分にも無理だろう、と思いながらも、礼儀上たずねる。
男性は心もち声をひそめた。
「異能を持っていることと、二・三年のうちに学院へ入学すること。それが条件です」
「がくいん?」
リリーは思わず聞き返した。
初めて聞く「学院」は、異能を持つ子供が才を伸ばすために通う学校だと説明された。
学費もそれなりにかかるため富裕層が大半だが、成績優秀者には奨学金が支給され、庶民でも通うことが可能なのだと。
「でも私、そんなにお勉強は……」
したこともないし、出来ないと正直に告白するリリーの前に、帳面が置かれた。
お読みくださりありがとうございます。
「シンデレラ」と「美女と野獣」をもとに小話を書いてみました。
短いお話なので、よろしければそちらもどうぞ。
もちろん、引き続き「花売り娘」もよろしくお願いいたします。
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