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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第2章【明かされる未来と過去】
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41話 我が子への願い

 爆弾の在処、爆破する仕組みを聞き終え、姫は即座に立ち上がる。なにも言わずにドアノブに手をかけた姫に修司が声を上げた。


「お前は……俺を恨んでいるか? お母さんも」


 その言葉に姫の手が止まる。


「自分たちの研究の間違いを正すためにした行動がお前を苦しめたのなら……本当に申し訳なかった」


 修司の震える声に、隣にいた彰や由紀も謝罪を込めるように頭を下げた。


「どんな結果になってもいい。姫の思うようにしなさい……」


 姫は返事することなく、そのまま部屋を出ていってしまう。


「本当に教えてしまって良かったんですか?」


 由紀が不安を漏らす。誰もがその不安を抱き、拭いきれていないのは事実だった。それでも修司はそんな不安を振り払うように笑顔で答えた。


「俺は自分の娘を信じてみたいんだ。俺たちのせいで不幸を背負わせたのに、こうして指示を無視して会いに来てくれた姫を俺は応援するしかできない……今の俺たちにはもう待つより他はないんだ」


「樋渡くんの言うとおりだ。監禁されたわたし達には何もできない……今はただ小さな希望に願うしかできないんだ。だったら、少しでも彼女たちの未来が明るくなるように願おう」


 孝太郎の力強い声にみんな深く頷く。


「社長、そういえば……」


 彰が思い付いたように孝太郎に訊く。


「未来から来た組織は……我々の子供だけだったんですよね?」


「ああ、わたしが会ったのは君たちの子供だけだ」


「そうすると、あんな子供3人だけでウイルスをどう使うつもりなのか少し疑問に思いませんか?」


「いや、完成したウイルスを未来の仲間に渡すためなんじゃないのか? それなら、少人数で未来に来た理由になるだろ」


 孝太郎の回答に彰は悩み込むように唸り声を漏らす。彰の代わりに、由紀が不安そうに声を出した。


「鴇は爆弾がもう既に仕掛けられているのを知っていたように話してました。だとするならば、わたし達が爆破を起こした後も、少なからず()()()()()()()()ということになります。わたし達の今現在の子供は親戚に預けて、こんなウイルスや組織とは無関係な生活を送っていてもおかしくないはずなのに……こうしてわたし達の前に組織の一員として現れたんです。なんだかおかしくありませんか?」


 由紀の疑問にみんな同時に顔色が暗く変化していく。


「わたし達以外の研究員は、何も知らずにウイルス開発を行っていると思ってきたけど……実はもう今の時代に組織は存在していたんではないでしょうか? 社長が知らないだけで……この会社内部でもう組織が動き出していたとしたら」


 恐ろしい想像が頭を駆け巡る。


「この未来にあの子達が来たのは、組織がわざと仕組んだわたし達への復讐なのではないでしょうか?」


「まさか」


 孝太郎は否定しようと口を開くも、すぐさま言葉を飲み込んでしまった。


「姫は幼かったから……ああやって俺に会いに来ることを止められていたのかもしれない。親に会って情が湧いてしまったら、計画が狂ってしまうから」


「修司さんもやっぱりそう感じたんですね」


「姫は明らかに動揺していた。浬や鴇のように、親を完全に憎んでいる様子じゃなかったから……すまない、ひどい言い方だった」


 修司は申し訳なさそうに由紀に頭を下げる。


「俺の娘は幼い分、恨みも薄い……その違いなだけで、きっと俺のことは憎んでる。目も合わせてくれなかったから」


「けど、姫さんはお母様と一緒に住んでて……なぜ組織のもとに行ったんでしょうか? わたし達の子だって関わることもないはずなのに」


 由紀が不安そうに彰に目を遣ると、少し険しい表情を浮かべて、躊躇い気味に話始めた。


「さっき由紀の言ったことが本当ならば……爆破の起きた後、あの子たちを復讐の道具にするべく組織が誘拐した」


「そんなことっ」


 ひどいと言う前に、由紀は言葉を詰まらせ涙を浮かべた。


「もしくは……あの子たちが自ら望んで復讐のために組織に入ってしまったか。どちらにしろ、俺たちの間違った選択で子供たちを巻き込んでしまったことには変わらない」


 泣きじゃくり始めた由紀に慰めの言葉も見つけられず、肩を擦ってやることもできない。彰は肩を落としながら呟くように告げる。


「なにがなんでも子供を不幸にしないために鴇や浬を説得できたらいいのに……何もできないなんて、なんて不甲斐ないんだろうか」


 孝太郎が慰めるように口を開く。


「樋渡くんの娘さんがなんの考えもなしに独断で行動するような子ではいかもしれない。もしかしたら、何かしら頼れる人がいるんではないだろうか?」


「そうだと有り難いんですが……」


 修司はそう言いながら、そっとカメラに目を向けた。


「けど、あの子ひとりが無理をしてなにか起こってしまうよりも……無事に未来へ帰ってほしいと思うのが、父親の情けない願いではありますけどね」


 その様子を今も尚見つめ続ける浬に、戻ってきた姫が声をかける。


「浬さん、ありがとうございました」


「爆弾の在処を知ってどうする気だ? お前が先に知ったところで鴇だっていずれは場所を聞き出すだろ」


「いえ、先に知っておく必要があるんです。ウイルス開発が進んでいるなら尚のこと」


「なんだよ。あんまり余計な行動をすると鴇に怪しまれるぞ」


「怪しまれる前にやっておきたいんです。だって、浬さんだって……本当は」


 姫がなにを言いたいのか分かったのか、遮断するように背を向けた。


「これからカメラ録画を確認しなきゃならないんだ。お前はお前の仕事しろ」


「すみません」


 キーボードに手を走らせながら、姫が部屋を出ていくのを待つ。部屋から出ていく気配を感じてから浬はひとり溜め息をつく。


「悪者になりきれないのもつらいよな」


 その声は静けさの中、虚しく響いた。

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