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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第2章【明かされる未来と過去】
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31話 隠されたワクチン

 拓が退院してから一週間後、夏休みに入った。

 夏休み初日、みんなが拓の部屋に顔を揃えた。ここに集合したのは、これから満里奈を守っていく上でどんな行動をすべきかという作戦会議が主な議題ではあったが、他にもうひとつ確かめなくてはならないことがあった。


「昨日、アキさんに付き添ってもらって家に取りに行ってきました」


 みんなが囲む中心に、満里奈は鞄に詰め込んでいた品々を床に広げ始める。


「この中にワクチンがあるんでしょうか?」


 そう、ワクチン探しだ。浬の乱入騒ぎのせいでワクチンを探せないまま保留になっていた。

 最初は組織が満里奈を見張っている可能性があるかもしれないからと警戒していたのだが、浬の宣言通り、あのあと組織の人間が満里奈の前に現れることはなかった。もしかしたら、今は満里奈よりもウイルス開発に集中しているからかもしれない。それは安心要素ではなく、嵐の前の静けさというのが正しい。ウイルスが完成してしまえば組織は再び満里奈を狙ってくる。それは明確だった。

 組織は満里奈の命ではなく、きっとワクチンを抹消したいに決まっている。だから、一刻も早くワクチンを見つけ、隠しておかなくてはならない。ワクチンがきっとこれからの戦いには欠かせない鍵となる。


「これがお父さんからもらったプレゼント全部なのね」


「はい。記憶にあるものは全部持ってきました」


 アキは一通りに目を配らせ、おもむろにひとつの物を手に取った。それは可愛らしいくまのぬいぐるみ。中になにか入っていないか入念に触り出す。


「みんなでひとつひとつ確かめていこう」


 拓の声に、博や文也も手近な品を手に取り、見たこともないワクチンを探り始めた。


「ワクチンってことは液体かな?」


 文也の疑問に、博は微笑する。


「どうかな。もしかしたら粉かもしれない」


 プレゼントはかなりの量で、様々なものがあった。ぬいぐるみが数個、洋服や財布、アクセサリーにオルゴール。ワクチンがどんなものかも分からない上に、プレゼントにどう隠されているのか検討もつかない。そもそも、本当にワクチンが隠されているのかいささか怪しいものだ。

 もしかしたら、あの広い家のなかに隠してあるという線も捨てがたい。だとすると探すのに途方もない時間と労力を使うことになってしまう。

 出来ればここでワクチンを見つけ出したいと拓は真剣に目を光らせた。


「そう言えばさ、夏休み中ずっと拓の家に集まるの?」


 いち早く作業に飽きてしまった文也が思い付きを口にする。


「俺は別にうちで集まるのは構わないけど、ちょっと手狭だよな」


 拓の部屋は決して広いとは言えない。畳六畳間に机、ベッド、タンスが置かれている。そうなると、計五人の人間が集まるには窮屈だった。そして、暑い。


「それに、博も受験だもんな」


 勉強は博だけではない。夏休みの課題というものがみんな平等に課せられている。そうなると、拓の部屋で勉強できるスペースを確保するのはどう考えても無理だった。


「リビングテーブルも4人掛けだし」


「わたしの家だと組織の人に知られててダメですからね」


 満里奈は申し訳なさそうに言う。


「そもそも人の少ない場所にするのがいけないんじゃない? 人目があった方が組織も手は出しにくいだろうから……逆に人が集まるところ、たとえば図書館とかどう? それなら勉強もできるし、人目もあって安全」


「文也、ナイスだ!」


「いいアイデアじゃないかな」


 博とアキは同時に声を上げた。


「今日はワクチン探しもあるから動けないけど、明日からは図書館に集合ね」


 アキは話をまとめると、また手に持っていたくまのぬいぐるみを隅々まで触り出す。しかし、ぬいぐるみの中には綿以外のものは入っていなかったようで、そっと袋へと戻した。それを見ながら、拓は目の前に置かれた小さな箱を手に取る。素材は合成の革で、深いワインレッドのカラーが高級感を醸し出していた。中身はたぶんアクセサリーかなにかに違いない。こういう見慣れないものは何となく緊張してしまう。


「それは去年の誕生日プレゼントに貰ったんです」


 拓の手にしたものに気がついた満里奈がにこやかに言った。

 誕生日と言うものは特別な日であり、家族から貰ったものはそれはそれは思い出深い品だ。それに加えて、高級品ともなると、途端に手元は慎重となる。落としたり、誤って壊してしまったら大変だ。


「ただのネックレスなんで、ワクチンは隠せないと思いますけど」


 満里奈が付け加える。それを聞きながら、拓はそっと箱を開けた。

 そこには綺麗なガラスを加工した綺麗なネックレスが丁寧に収納されていた。ピンクゴールドの細いチェーンに通された金具に綺麗に収まった丸みを帯びたガラス玉。側面は細かくカットされているために、光の加減で透明のはずが赤にも青にも色を変えた。高級品と言うほどではなさそうだが、素直に綺麗だと思える品だった。


「直接触って平気?」


「はい、もちろんです」


 指でガラス玉を掴むと、そっと目の前まで近付ける。キラキラと輝くガラス玉を目を細めながら見つめる拓だが、なにも異変は感じず、また箱に戻した。


「これじゃなさそうだな」


「それ見せて」


 拓が箱を閉じる寸前に、アキが手を伸ばす。


「なにもなかったよ」


「ちょっと見たいの」


 拓はそのままアキの手に開いたままの箱を乗せる。


「なんだか光の錯覚なのか中でなにかが揺れてるように見えたのよ」


「そうか?」


 間近で見た拓はなにも感じなかった。


「気のせいだろ? そんなガラスの中になんて隠せないだろ」


 そう言い放った拓を無視して、アキは黙ったままガラス玉を目に近付ける。瞬きも忘れ、数秒が経った。


「やっぱり、中になにか入ってる」


 アキの一声に、満里奈や博が一斉にアキへ目線を移した。


「よく見ないと分からないけど、このガラス玉のなかに、もうひとつガラス玉が入ってるのよ。その中に透明の液体が……わずかな量だから、大抵の人は気付かない」


 まさかと、みんな固唾を飲んだ。静かな部屋にアキの冷静な声が響く。


「これがワクチンよ」

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