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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第一章【2度目の余命宣告】
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29話 秘められた恋心

 雛梨と別れてからまっすぐ病室へと戻ってきた拓の目に見慣れた人物が飛び込んでくる。


「拓、どこに行ってたの? 今から探しに行こうかって言ってたのよ」


 アキが不満そうな顔を浮かべながら文句を言う隣で、心配そうな、どこか気まずそうな表情をする満里奈。そして、来るはずはないと思っていた文也と博の姿があった。拓は昨日の言い合いの場面を思いだし、同じように気まずさで言葉を詰まらせた。そんな中、アキは問答無用で言葉を続ける。


「検査はとっくに終わってるって看護師さんから聞いてたから待ってたのになかなか来ないからみんな心配してたのよ! もしかして具合悪くなったとか? それともまた組織の人が現れたとかじゃないわよね?」


「いや、ごめん……朝ごはん食べ損ねて売店行って食べてから来たんだ」


 アキの質問攻めに堪えかね、拓は自分でも驚くほどの小さな声で答えた。

 すると、満里奈が勢いよく頭を下げる。


「えっ!?」


 あまりにも突然のことに拓は驚きの声を漏らし、満里奈に視線を向けた。


「またわたしのせいでごめんなさい!! 狭山くんに迷惑かけっぱなしで」


「いやいや、あれは片倉のせいじゃないから! そもそも貧血なんかで倒れた俺の方が不甲斐ないって言うか……守るとか言っておいて情けないとこ見せて不安なさせてごめん」


「そんなっ……情けないなんて思ってません!」


「ありがとう」


 瞳を潤ませながらこちらを見つめてくる満里奈の姿に拓は柔らかな笑顔を返す。


「これからは心配かけないようにするから……博も文也にも」


 そう言いながら視線を移すと、博が一歩前へと歩み出る。


「拓、あの時は悪かった」


 謝罪されるなんて思っても見なかった拓はまた驚きに目を見開く。


「わざと俺たちを巻き込まないようにしてくれてることに気付いてたのに、俺も意地になってあんな言い方して……拓が倒れたって聞いたときすごく後悔したんだ。本当にごめん」


「博っ」


「僕もふたりのこと止められたのに、それをしなかったのは後悔してるけどさ……ただ言わせてほしいのは大切な友達が危険なことに巻き込まれそうな状況になってたら簡単に賛成するバカはいないからね。大切に思ってるからこそ止めるのが本当の友達なんだからさ」


 博に続くように文也も照れ臭そうに喋りだした。


「だから今度はちゃんと僕たち巻き込んでよ。自分だけ背負おうなんて無鉄砲にもほどがあるでしょ」


「文也、博……ありがとう」


 一気に目尻が熱くなっていくのが分かる。必死に涙をこらえながら、拓は満面の笑みでお礼を言った。


「また組織のやつらが来たときは俺たちだってなんとか立ち向かえるよう協力するから、遠慮なく言ってくれよ」


「痛いのはごめんだけどね」


「俺だって痛いのはもうごめんだって」


 3人の間にあったわだかまりが嘘のように消え去り、いつものような穏やかな空気が戻ってくる。そのやり取りを見て満里奈はほっとした顔でアキを見遣った。


「アキさんはすごいですね」


「なにが?」


「今日、相田くんと宮下さんを連れてきてどうなるかわたしはすごく心配だったのに……アキさんはそんな不安を微塵も感じさせませんでした。あっという間に狭山くんを笑顔に変えてしまえるアキさんはすごいです」


 満里奈の素直な言葉に気恥ずかしさを感じながらも、アキは何かを考え込むように真顔に戻った。そんなアキの変化に気付きながらも、満里奈は笑い会う3人に気をとられ、アキから目を外す。


「それよりも、拓は退院いつになりそうなんだ?」


「検査結果で何もなかったら、明日には退院できるとは言われてる。貧血はいつものことだから」


「なら良かった」


 安堵する博に対し、文也が難しそうに表情を浮かべる。


「けど、これからどうするの? 学校もあと少しで夏休みだし……片倉を四六時中見張るってなかなか難しいと思うんだけど」


「それなら心配ないわ」


 アキが即座に声を上げる。


「満里奈さんはしばらく拓の家で住むことになったから」


「えっ?」


 拓は間の抜けた声を出す。


「拓のお母さんに満里奈さんが知らない人から付け狙われてるって相談したら、家に居ていいって快く歓迎してくれてるから……満里奈さんが一人きりになることはなくなるわ」


「アキ……お前って抜け目ないよな」


 感心したような、半分呆れたような口調で拓が告げると、アキはどや顔で鼻息を飛ばした。そんな姿に思わず吹き出しそうになり、手で口を覆いながら笑い声を抑えた。


「けど、組織のやつらが拓の存在を知ったなら危険じゃないのか?」


「それもそうだよね」


「いや、きっとそれは心配いらない気がする」


 博と文也が不安に思うなか、拓は全く別のことを考えていた。


「あいつ……浬って名乗ってたんだけど、敵がそんな簡単に名乗ったり、満里奈じゃなく俺に会いに来ただけなんて変だと思わないか?」


「けど、学校のガラスとか割ったのってそいつなわけなんだし、危険なことには変わらないんじゃない?」


 文也の返しに、博も同意兼とばかりに頷く。


「確かにあいつは組織の人間なのは間違いないし、危険人物だって理解してる。でも何かが引っ掛かるんだよ……わざわざ自分の顔をさらしてまで俺に会いに来た行動の意味が」


「ただ俺たちを弄んで楽しんでるだけじゃないのか? きっと俺たちが何もできない高校生だって馬鹿にしてるんだ」


「そう、かもしれないよな」


 博の言葉に、拓は自分の中にある考えが淡い期待でしかないと思い直し、その話題をやめた。


「とりあえず家に居て何かあるようならまた考えよう。まずは満里奈の安全を考えて行動していかないと駄目だよな」


 拓は満里奈に視線を向ける。


「満里奈……色々落ち着かないかもしれないけど、俺の家では我慢してほしい」


「いえ! 我慢なんて……わたしのためにありがとうございます」


 うっすらと赤らんでいく頬、それは隣にいたアキにしか分からない変化だった。

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