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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第一章【2度目の余命宣告】
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23話 揺るぎない関係

 浬の姿が消えたことで緊張の糸が切れた満里奈は深く息を吐き、近くの壁に背中を預ける。


「大丈夫?」


 アキが気遣うように満里奈に声を掛ける。


「はい、なんとか……」


 怪我はしてないものの、いきなり組織のひとりと対面してしまったのだから精神的な疲労が時間差で体の力を奪っていく。強気なアキでさえも顔色が優れなかった。拓は無言のまま未だにベランダの下を覗き込んでいる。


「とりあえず、みんな無事だったことだし……気を取り直してワクチンを探しましょう。今は組織もそこまで満里奈さんを脅威とは感じていない今のうちにワクチンを見つけて、次に備えないと」


 拓に向けて言った言葉だったのだが、どういうわけか反応が返ってこない。


「満里奈さんをここに留めておくのは危険だって分かったんだから早く行動しないと……ちょっと、拓? 聞いてるの?」


 声を掛け続けても体すら動かさない拓に痺れを切らし、アキは苛立つように拓の肩を掴んだ。


「ねぇ! ボケっとしてる暇なんてわたし達にはないのよ!?」


 軽く肩を引っ張った程度だった。なのに、拓の体が簡単にアキの方へと傾き、受け止める動作も間に合わないまま床へと倒れ込んでいく。床に体を叩きつける音と同時にアキと満里奈は我に返るように拓に駆け寄る。


「狭山くん!?」


「拓!!」


 気を失っているだけならば良かった。だが、見るからに具合の悪そうな青白い表情をしている。ただ事でないことは一目で理解できた。


「まずいわ……やっぱり怪我が思ったよりも酷かったのかも。病院へ連れていくべきだったわね」


「わたし救急車を呼んできます!!」


「ありがとう」


 満里奈は慌てて一階へと向かう。アキはそれを横目に、浅い呼吸を繰り返す拓の様子を心配そうに見つめた。


「具合が悪いなら早く言いなさいよ。あなたが倒れたら満里奈さんを誰が守るの」


 その言葉に拓の眉が僅かに反応を示す。だが、意識は朦朧としているのか、口から出てくるのはうめき声。


「ひとりで無茶ばっかりしてたら、体が何個あったってもたないんだから……バカね」


 そう呟いたアキはそっと拓の頬を滑らすように撫でた。



 拓の家から飛び出した博と文也は一度は帰宅しようと最寄りの駅まで足を進めたのだが、改札口まで来たところで足を止めた。


「悪い、俺ちょっと寄り道するから」


 博が出しかけた定期券を鞄の中へ戻すと、文也に申し訳なさそうに告げる。


「俺も付き合っていい?」


 いつも通りの無表情を貫く文也だったが、声はどこかいつもより沈んでいるように感じた。博は言葉にすることなく、ただ頷いてみせる。来たばかりの駅を離れ、ふたりはただなんとなく辺りを無言で歩き回った。

 暫くすると誰も遊んでいる気配の無い小さな公園を見つける。ブランコとおもちゃが放置された砂場ぐらいしか遊び場のないもの寂しい公園に、ふたりは吸い寄せられるように入っていった。あまり手入れをされていないのか雑草があちこちに生え、ポツンと設置された自販機には蜘蛛の巣が張っていた。

 躊躇いながらもその自販機に小銭を入れる。


「おごるよ」


「ありがとう」


 博は苦笑いしながら言うと、文也も小さく笑って返した。

 冷えた缶ジュースを片手にベンチへ座る。一口飲んで、カラカラの喉にが少しだけ潤ったところで文也はボソッと呟く。


「拓は……いい加減に物事を決める奴じゃない」


「知ってる」


 博はどこか困ったように眉を下げ、文也を見た。


「小学校のころからずっと三人で過ごしてきたんだ。拓が真剣かそうじゃないかなんて一目見れば分かる」


「このまま協力しないつもり? きっと俺たちがいなくても拓は危険に飛び込むつもりだよ」


 文也の問い掛けに博はため息を漏らす。目線は手元の缶を見つめてるようだったが、まるっきり別の何かを見ているような瞳で博は沈黙してしまった。文也は急かすことはせず、その様子を見守るように見つめた。


「協力はしたい」


 やっと放たれた言葉だったが、博は思い悩むように頭をくしゃくしゃと搔き回す。


「けど、迷ってるんだ。あいつ、わざと俺たちを突き放しただろ? そうまでして巻き込まないように必死になるあいつに正直腹が立った。こんだけ長い時間を過ごしてきたんだから、素直に頼れよって……なのに、関わらないように仕向けるあいつ見てたら俺も意地になってさ。しまいには喧嘩したみたいになるし」


 ふっと目線を上げると、明るかった空がじんわりとオレンジ色を濁らせていくのが見えた。


「あいつって昔からそうだよな。頼らないで、辛いこと背負い込もうとする」


「喧嘩なんていつ振りかな。てか、博が喧嘩って珍しいよね。どっちかって言うと博は間に入って止める役だったから」


「だな」


 ふたりは同時に微笑み合う。


「博さ、もしかして気付いてたんじゃないの? ()()()()()()()()()()()()


「なんとなく……拓を見てれば分かるさ」


「アキって人、本当に未来から来たのかな?」


「たぶん本当なんだろうな。拓が信じたってことはそういうことだろ?」


 博はゆっくり立ち上がると、笑顔で文也の方へ振り返った。


「仕方ないから手伝ってやろうか。あいつ頑固だから俺たちが無理矢理入っていかないと頼ったりしないからさ」


「そうだね」


 進む方向が決まり、ふたりの表情が明るくなった矢先だった。

 博のスマホが何かを知らせるかのように鳴り始める。


「誰だ?」


 知らない番号だった。

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