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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第一章【2度目の余命宣告】
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22話 浬との対面

 階段を駆け上がってすぐ目に入った部屋へと飛び込む。その瞬間、満里奈が驚いた顔でこちらへ振り向いた。


「狭山くんっ」


 そのまま目線をずらしていくと、全開に開け放たれたベランダの窓に見知らぬ青年が立っているのが映り込む。サラサラと風が吹く度に靡く黒髪、きつい目をしながらも整った顔立ちのその男を拓は無言で見つめた。というより、何か一言でも発したらとんでもないことが起きてしまいそうで躊躇われたのだ。ごくりと唾を飲み、混乱する頭をどうにか平常に戻そうと心がける。

 沈黙が長引く間に少しずつ視界がハッキリしだした拓は、はじめに目の前にいる満里奈を確認した。怯えた様子ではあるが怪我はなさそうだ。さっきまで一緒に階段を上ってきたはずのアキの気配が背後に感じないことを不思議に思いながらも、拓はまっすぐ目の前の青年に目線を向ける。


「お前、見覚えがある……あの時その女庇ったやつだよな?」


 少し笑みを含ませながら青年から声を発した。


「あなたは誰なんですか? ガラスを割ったのはあなたってことですよね?」


 相手を刺激しないように慎重に言葉を選ぶ。


「そうだよ」


「あなたは……組織の人間ですか?」


 その問いに浬の眉がピクリと反応を示す。


「へぇー、俺が組織の人間って知ってるのか。お前何者だ? 見るからに普通の学生って感じだけど……もしかして未来が見える超能力者かなにか? あの時、彼女が狙われていることを知ってて守ったってことでしょ?」


「別に言う必要はないだろ」


「まぁね。お前が何者でも俺たちは止められないだろうし」


 満里奈を襲いに来たにしては悠長に会話する青年に拓はどう行動するか迷っていた。隙を見て満里奈の腕を掴み、ここを出ていくのが一番の打開策ではあるが解決策にはならない。この部屋を出たところで逃げ場がないのは分かり切っていたからだ。だとしたら、選択肢はひとつしかない。


「彼女を狙う理由は知ってる。けど、あなたが言う通り俺の力だと組織には敵わない……俺たちは無力だ。だから、今急いで彼女を傷つけることは不必要だろ?」


「お前、面白いな……俺と交渉しようとしてる? だよな、この状況だと逃げ場ないしな」


 どこか楽しそうにしながら納得するように頷く。


「確かに俺たちの目的は彼女の持っているあるモノを探し出し奪取すること。場合によってはその女を排除しなきゃならない」


 満里奈は慌てて拓の近くに寄り添う。


「でも、女ひとりにムキになるほど俺も暇じゃないし……やろうと思えば簡単にできる」


「なら、なんでだ? 本気で彼女を排除したいならどうして学校であんな中途半端な攻撃をしたんだ?」


「あれは俺が勝手に挨拶がてらやってみただけだよ。俺たちの狙う相手はどんだけ平和ボケしたお嬢さんなのか興味があったからな……安心しろよ。今すぐ女をどうこうしたくて来たわけじゃないから。ただ、俺たちの目的の一つが達成できた時は用心しなって忠告に来ただけさ」


「そんなことベラベラ話していいのか? そんなこと忠告して、あなたに何のメリットがあるんだ?」


 青年はふっと笑みを零す。


「さぁね。ただ今回ここへ来たのは……お前に会うためが正しいかな?」


「え? 俺?」


「だって、俺の攻撃にいち早く気付いたのお前だけだし……彼女のところへ来たら、君が誰か分かると思ったんだ。それが今日来た理由」


 どうにも相手の意図が読めない。


「なら、今日はこのまま帰ってくれないか? 俺が誰だか分ったんだから、もう済んだだろ」


「そうだな……けど、お互い名前を名乗っておかないか? 俺、お前に興味が湧いちゃったんだよな」


 本気で相手は拓を超能力者とでも思っているのだろうかと疑問に思うが、攻撃を目的とした行動ではないと知ったことで恐怖心が和らぐ。拓は一度深呼吸すると、少し強気の姿勢をとった。


「名乗らせたいなら、そっちだ先に名乗ったらどうだ?」


「俺? いいぜ……俺は隼 浬。俺は未来からある目的のためにやってきた。いずれ、その女を殺す男だ……よろしくな」


「へぇー。なかなか礼儀正しいんだな」


「さて、お前にも名乗ってもらいたいんだけど」


 拓は正直迷った。ここで名乗ってしまったら、自分の周りにも被害が出るんじゃないかという不安が少なからずあったからだ。しかし、どうも彼からそこまでの敵意が拓には感じられない。目つきは悪そうだが、相手はどう見ても普通の青年。拓は自分の直感を信じて、ゆっくりと口を開いた。


「俺は狭山 拓だ。残念ながら超能力者じゃないけど……次、彼女を狙うなら俺は全力で君と戦う覚悟がある」


 内心ドキドキしていたが言い切った。すると、浬が急に笑い始めた。


「やっぱり面白いなお前っ……気に入ったよ、拓」


挿絵(By みてみん)


 冷や汗でひんやり感じる手のひらを握り締めながら、拓は無言で浬の仕草を観察する。


「せいぜい無駄死にしないように頑張れよ。お前みたいな面白いやつが簡単に死んじまうのは俺としては惜しいからさ」


「無駄死にする気はさらさらない! 俺は絶対に彼女を守り抜いて見せる!!」


「いい目だ、狭山 拓。しばらくは俺たちも忙しいから……またいずれ会おう」


 そう浬が言い終えたと同時に、背後に気配の無かったアキがいきなり飛び込んできた。そして、何か言葉発する前にアキは何かを浬に向けて投げ付けた。


「おっと」


 浬はそれが命中する前に、手で素早く掴み止めた。アキが投げたのは、どうやらテーブルナイフ。さっき居なくなったのは、キッチンからそれを持ってくるためだったようだ。隙ができた時に攻撃できるようにと考えたようだが、呆気なく失敗に終わってしまう。


「なんだ、威勢のいい女が隠れてた」


 浬はまた楽しそうに笑う。


「あなたには何も渡さないわ!!」


 アキが再び予備のナイフを取り出し、攻撃態勢をする。


「アキ、やめろ! 相手はまだ」


「ここでひとり倒しておけば有利になるでしょ! わたしは負けるわけにはいかないの!!」


 明らかに目の色が変わったアキに拓は止めようと伸ばしかけた手を引っ込めた。

 その時、浬が一歩こちらへと近寄り、アキをまじまじ見つめた。


「……お前、見覚えあるんだけど」


「え?」


 浬の一言にアキの動きが止まる。


「でもいいや……はい、こんなナイフじゃ何個あっても俺は倒せないよ」


 浬が投げ付けられたナイフをそっと床に置く。


「今日はいい収穫があって満足だよ。じゃあ、またね」


 そう言い残すと浬は勢いよく走りだし、ベランダから飛び降りてしまった。慌てて後を追うも、その姿はどこにもなかった。


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