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余命宣告を受けた俺が世界を救う理由  作者: 石田あやね
第4章【 救われた未来で生きる理由】
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107話 自分の役割

 ーー20分前。

 裏口から突然飛び出してきたアキと満里奈にみんな驚いた。


「片倉さん、アキさんも! 無事で良かった」


 博が先に言葉をかける。そして、幸太郎がアキに向き合い立つ。


「雛梨……お前、どうして戻ってきたんだ」


 先程のやり取りがあったため、こうも早く戻ってきたことに戸惑ったために出た言葉だった。


「今は事情を話してる時間はないわ。それよりも博さん……満里奈さんを連れて、安全なところに避難して」


「待って、拓は? どうして満里奈さんがいるのに拓がいないの?」


 文也が焦った口調でアキに詰め寄る。


「また最上階へ向かったの」


「どうして!」


「姫を助けるため」


 その言葉に修司が反応を示す。


「娘を助けるため?」


「今、樋渡さんがひとりで浬さんのお姉さんに立ち向かってるんです。拓さんはそんな樋渡さんを助けるためにまた戻っていきました」


 満里奈が涙ぐみなが告げた。


「きっと、浬さんを失って……これ以上、犠牲者を出したくないと思ったんだと思います」


「浬がどうしたって?」


「あの子に何があったの?」


 満里奈の発言に彰と由紀が動揺を滲ませる。ふたりの存在に気がつき、満里奈の代わりにアキが答えた。


「浬さんは満里奈さんを守るためにお姉さんに抵抗して、銃で撃たれてしまったそうです」


 まさか兄弟で殺し合うなんて夢にも思わず、アキの言葉はふたりに大きな衝撃を生んだ。由紀はショックのあまりその場で泣き崩れる。そんな妻に寄り添うも、彰もまた強い悲しみに打ち(ひし)がれていた。


「爆弾なんて用意しなければ……ただ黙ってウイルスを作っていれば良かったのか? 俺たちがやろうとしたことは子供たちにとって正義じゃなく、ただの過ちだったのか?」


 彰の悲痛の問いかけ。それに対して、博と文也は何も言えず黙り込んだ。アキと満里奈も同じだ。励ましも慰めも相手は求めていない。それを知っているからこそ、かける言葉が見つけられなかった。

 そっと沈黙していた幸太郎が彰の肩に手を乗せる。


「彼らの辿った人生は俺たちには変えてやることは出来ない。彼らにとっての親は死んでしまったんだ……けど、今は違うだろう? 俺たちが今守るべきなのは過去ではなく、未来なんだ。死ぬ運命だった俺たちが生きることが出来たのなら、その先にある未来はまた別のものに変化する。だとしたら、今度は子供たちが幸せになる世界を築くために立ち上がるべきなんじゃないのか?」


「社長……」


「立ち止まってはいけない。子供に守ってもらってばかりなんて大人の恥だ! 今生きる我が子のために俺たちが戦う番だ!!」


 幸太郎が彰に手を差し伸べる。それに答えるように彰は手を取った。


「そうですね。二度と子供たちがこんな悲劇を繰り返さないためにも……今は戦わなくちゃならない」


 それを聞いていた由紀も涙を拭き、強く頷く。すると、遠くでサイレンの音が聞こえてきた。


「警察が来たらまずは室長と一緒に俺も同行します」


 修司が決意を述べる。


「ウイルスもデータも揃っているから、警察もすぐに信用するでしょう」


「私たちも一緒に」


 由紀と彰が同時に声を発した。


「いいのか? 鴇さんのこと」


「それを言ったら、君だって姫ちゃんが気になってるだろうに」


 彰と修司はお互いに笑顔を交わす。答えがもう決まっていると表情が物語ってた。


「社長はこの子たちと最後まで見届けてください。そして、何もかも済んだら俺たちに聞かせてください」


「わかった」


 取り合った手が握手に変わる。


「なら、君たちは俺と付いてきなさい。ここにいてはダメだ……雛梨は? お前はどうしたい?」


 幸太郎の問い掛けにアキは真剣な目を向けた。


「わたしは戻る。彼を……拓を助けに行く」


「アキさんっ」


 満里奈の考えが分かっているのか、アキは切なく微笑む。


「満里奈さんは博さんたちと待ってて……必ず拓を連れて戻るから」


 そう言うとアキは満里奈の背中を押し、近くにいた文也にその身を託す。


「まだ何が起こるか分からないから、満里奈さんをお願いね」


 文也は何も言わず、満里奈の両肩を力強く掴んだ。


「アキさん……拓を頼む」


 代わりに博が告げる。


「任せて」


 アキは笑顔で返した。


「雛梨……気を付けてな」


 幸太郎の言葉に頷くと、アキはまた裏口のドアを開け放った。


「行ってきます」


「アキさんっ!!!!」


 姿が消えそうになった瞬間、満里奈が駆け寄ろうと体を動かす。しかし、文也はそれを止めた。


「ダメだ」


「文也さん」


「今ここで戻ったら、拓のやったことを全て台無しにするんだよ。片倉が今出来ることは拓とアキさんが戻ってくることを信じて待つことだ」


 いつになく真剣な顔をする文也に満里奈は抵抗することを諦めた。


「俺と博だって拓を助けに行きたい。けど、それを必死で堪えてるんだ……片倉も今は堪えてほしい」


 真摯(しんし)な言葉は揺らいだ心を冷静にさせる。満里奈は小さく頷いた。

 ビルの中へ駆け込んだアキは迷うことなく非常階段へと向かう。エレベーターを待つ時間が惜しいと考えたからだ。


(まだ最上階にいるとは限らないけど……)


 試しにスマホで連絡を試みるが電源を切ったままにしているのか通じない。


(拓、どこに居るの!?)


 長く続く階段を上がり続けていると、何やら頭上で音がし、地震のような衝撃が揺れとして伝わってきた。


「まさか」


 嫌な予感に焦りが生じる。息が荒くなり、階段を上がり続けるのも身体的に辛い。けれど、アキは懸命に音のした方を目指し駆け上がった。

 時間が空いて再びまた同じような振動が起こり、近くまで着ていたためか足元がグラつくほどの揺れを感じた。それと同時に何かが割れるような音も聞こえる。


「拓っ!!」


 アキは身体に残った全ての力を振り絞って、音の鳴った階へ向かって走った。

 開けっぱなしのドアが目につき、勢いよく駆け込む。


「拓、居るの!?」


 廊下へ出た瞬間、アキに向かって強い風が容赦なく吹き付けた。そして、探し求めていた拓と目が合う。

 割られた窓をバックに、拓はなぜだかアキを見ておかしそうに笑った。

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