はじまり
はじめまして。石田あやねです。
わたしをご存じの方はお久しぶりです。
前作から二か月以上お休みしてしまいましたが、ようやく新作がまとまりましたので投稿を始めたいと思います。また長編ものですので、焦らずゆっくりと進めていきたいと思っていますのでよろしくお願いします。
高層ビルの5階から見下ろす景色に思わず喉を鳴らす。足元に目を向けると恐怖心から足が竦んだ。
高さ15メートル。
この高さから飛び降りようとしているなんて、なんて自殺行為だろうか。下から容赦なく吹き付けてくる風に幾度も足がふらつき、その度に嫌な汗が手の平を濡らした。
「大丈夫」
拓の耳に彼女の力強い声が届く。握られた手に力が籠り、そこから伝わる温もりに不思議と心は落ち着いた。彼女の言葉で嘘のように恐怖心が薄れていく。
――アキ。それが彼女の名前。
目を一度閉じ、深く息を吸い込み、ゆっくりと肺を空にする。覚悟を決め、拓は目を開けた。
「うん……いこう」
ふたりは意志を確かめ合うように頷き交わし、同時に自分たちが飛び降りる景色に目を向ける。これは決して死ぬための決断ではない。
生きるための決断をしたからだった。
人は誰しも最期を迎える瞬間が必ずやってくる。それが生を受けた生き物の定めであり、運命だ。出会いと別れを繰り返しながら、人は長くも短い人生を歩む。そして、唐突に迎えるのだ。
だが、拓は今自分の運命に逆らうための覚悟をした。
「俺は生きる」
その言葉にアキは微笑む。
運命のカウントダウンに合わせ、ふたりは手を繋いだままビルの窓からジャンプした。
飛び降りた瞬間、拓の脳裏にいろんな出来事が走馬灯のように浮かび上がる。幼い頃の楽しい記憶、悲しく苦しい別れ、新たな友、苦渋の決断、運命のような出会い。自分の人生がもしここで終わってしまうとしたら、今までの生き方は正しかったのだろうか。
拓は強くアキの手を握り締める。
誰かの役に立って死にたい。
拓はそんな言葉を言った当時のことを思い出した。
生きることよりも、残された時間に何ができるかばかりを考えていたあの頃は拓にとっては苦悩の期間だったと言える。死にたいと思っていたわけでは決してない。だからこそ苦しかった。
しかし、今は違う。
――生きたい。
そう、はっきり言える。
今回も恋愛なのですが、少しハラハラした内容になっていますので
先を書くのが楽しみです。
頑張って書き進めていきますので応援して頂けたら嬉しいです!