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世界脅威

 ヴァーミリオン帝国の首都デュランダルにある円卓会議室。

 建国以来、帝国の重鎮達が様々な会議を開き、多くの意思決定を行ってきた歴史ある場所。


   その黒と白を基調とした大理石で作られた円卓には、帝国の重鎮たちが座っている。

   私たちは、先週極東地方で多くの人が目撃した巨大な光柱のことを話していた。


  「光の柱の原因が、魔術の仕業だと言うのか! 」


   強面の厳つい髭を生やした大男が円卓を叩き憤った。鮮やかな刺繍が入った上着からでも胸板の厚さが分かるほど、ムキムキな体をしている。


  「まぁまぁ、そんなに興奮しないでアズちゃん。 確かにとんでもない光じゃったが、ダプトアは無事だったんだから良かったじゃない~」


   高齢の女性に(たしな)められ、アズちゃんと呼ばれた強面の大男は、「フンッ!」と鼻息を鳴らし押し黙った。


   大男の名は、アズライル・ヴェルトハイム。 宰相の座につく帝国No.2の権力者。

   見た目通り豪胆で傲慢な性格で、宰相の座に着くほどの政治力を持ち、帝国の裏で暗躍するやり手でもある。


   そんな宰相をちゃん呼びする高齢の女性は、宮廷魔術師のゼルマ・テラ・リステンシュタイン。

   帝国最強の魔術師にして、知識の宝庫と呼ばれる賢者。

   聞いたところによると、アズライルとは長い付き合いで、どちらも帝国を先代から支えている偉人である。


  「……うーん、不思議ですよね。 あれが魔術だと言うなら、規模からして立体魔術(ソリッド)並の魔力量です。 もしそうであれば、そんな高位の魔術師が辺境の地で何をしていたのでしょう……まさか、新たな魔術の実験でもしてたんでしょうかッ! 僕も混ぜて欲しい、欲しい欲しい~ !! 」

  「おちつけエルステェッ-----ド !! 貴殿は魔術のことになるとすぐ自分を見失う。そんなことでは帝国、いやガーランド陛下を守ることなど出来ぬぞッ!」


   エルステッドと呼ばれた少年は元より、落ち着かせたいのか自分が吠えたいのかどちらか分からない、ド派手な黄金の鎧をガチャガチャ鳴らすこの騎士も、立ち上がり自己主張を始めた。


   その様子を見たアズライルはムスッとし、ゼルマは「オッホッホッ」っと口をすぼめて笑い、孫を見るような優しい視線を投げかけている。


   ちなみにエルステッドは本当にゼルマの孫。 名をエルステッド・マーズ・リステンシュタイン。

   弱冠十四歳で魔術師ギルドのマスターの座についた天才魔術師で、帝国の孫と呼ばれ民衆から愛される人気者。

   となりで吠えているのは、カーマイン・グリフレッド。 代々皇帝を警護する親衛隊の隊長を務める。 とにかく熱血漢で暑苦しい男。


   ここ最近、会議になるたび起こっているこの現象に、私は飽き飽きしていた。

 

   左手に持っていたパイプを深く吸い込み、騒がしい二人に向けて煙を吹きかけこちらに注目させる。


  「二人とも、落ち着いて下さらない?」

  「ご、ごめんなさい! つ、つい」

  「ガーハッハッハッ! 帝国を想うが故にな。 許されよ、マーリン殿ッ!」


   私の名はマーリン・エムリス。 帝国の参謀の地位に着く知性と気品溢れる金髪美女……という設定でここにいる。

   今回ある目的のため、帝国の重鎮たちを集め会議を開いたのに、面子が個性的すぎて話がなかなか進まず困っていた。


  「では、引き続き本日の議題『ダプトア大森林で発生した超常現象』の調査報告をさせていただきます。 ……アルデバラン団長、続けてもよろしいかしら?」


   私は隣で目を瞑り、彫像のように動かない壮年の男性に声をかけた。

   左目に眼帯を着け無表情で腕組みしているアルデバランは、こちらに視線だけ向け「かまわない」と一言だけ呟くと、ふたたび目を閉じる。

 

   アルデバランは王道十二門と呼ばれる帝国領を守る騎士団長のひとり。 議題に挙がっているダプトア大森林がある極東地方を担当しているため、会議に出席してもらっている。


   最近団長に就任した新参者なので、書類に書かれている情報でしか彼の素性は分からない。 現状、私が一番警戒している人物でもある。


  「先ほどもお伝えした通り、ダプトア大森林で目撃された光の柱は魔術によるものでした。 立体魔術(ソリッド)による大魔術に酷似しており、詳しい調査結果で分かったのは、光の柱によって一度消滅した木々や大地は再生し、周辺の至る所で同じような再生が行われたであろう痕跡が残っていました」



   この言葉で全員が私を注視し、緊張感が高まっていくのを感じる。

   まぁ、それも当然。 この魔術は帝国では類を見ない、誰も知りえない未知の魔術だったんだから。

   ある人には好奇心を、ある人には恐怖を与える。 起爆剤にもなり得る情報。


  「……危険だな」


   口を開いたのは宰相のアズライル。 一番動いて欲しい人物が思惑通りに動き、流れに乗った手応えを得た。


  「決めつけるのは早いんじゃないかい? 使用した人物に話を聞いて--」

  「どちらにしても早急に捕まえるべきだ。 今回は住民に被害がない場所で発生したが、もしその者がこの首都や街などの密集地帯で使ったらどうなる?」


   アズライルはゼルマの意見を(さえぎ)り、最もらしい意見をぶつける。 そこへ好奇心旺盛なエルステッドが割り込んできた。


  「もし、人体に使ったらどうなるんでしょう。 一度消滅してから再生されるということは、生命の復活も有り得る? そんなことが可能なら大変なことですッ! 魔術の常識を覆す一大事件、すぐに解明すべきです !! 」

  「落ち着くのじゃエルステッド。 人命は尊重されねばならん。 いくら実験好きのお主でも、それは許されぬ事。 わかったかの?」


   ゼルマに(さと)され、しゅんとするエルステッド。 しかし、隠れて舌を出しているのが私の位置から見えた。

   どうやらこの少年は倫理観が欠けているようね。 ふふっ、面白い子。


  「人命を尊重するなら、やはり捕らえるべきだろう。 マーリン卿、術師に心当たりは?」


   アズライルの質問に、私は魔術で具現化した書類を全員に送り、 犯人の情報を与える。


  「ダプトア大森林には、ある人物が住む屋敷がありました。彼女の名はベリル・ウル・ブリリアント・アリエル。 千年前の戦争、魂の狩猟(ワイルドハント)で活躍した二つ名の英雄です。 アズライル様やゼルマ様はご存知かもしれませんが、彼女は世界樹(ユグドラシル)出身の妖精族で平和条約により隠居しておりました……が、現在屋敷には誰もいません。 それはアルデバラン団長が確認済みです」

「「---------ッ !! 」」


   予想通り、ざわつき始めた。 二つ名の英雄の存在を知っている二人はもちろん、歴史書にも乗っている伝説の英雄が帝国に隠れ住んでいたことを知り、動揺が波紋のように広がるのを感じる。

   私はこの機を逃さず話を続けた。


  「彼女の存在は公にはできません。 代々の皇帝陛下やお二人のような一部の方々のみが知りうる極秘情報でもありますが、伝承によれば彼女は何万もの命を奪ったとても危険な存在だからです。 今回の大魔術は彼女が引き起こした可能性が高く、今後もこのような事態が起きた場合、帝国の被害は計り知れません。 よって、私は彼女を世界脅威(メナス)に認定し、然るべき対処をとるべきだと提案します」

  「一国の軍事力に匹敵すると言うのかッ…… 面白い!」

  「わたしの高祖母から話は聞いてはいたけど、それほどなのかねぇ」

  「ガーハッハッハッー! 七剣聖以来の認定だな」

  「是非会ってみたいです。 会いたい、会いた~い!」


   周囲がますます慌ただしくなる。

 

   世界脅威(メナス)とは、アストライオス全土において国々に脅威を与える存在を指名手配する制度。

   指名手配といってもギルドや軍隊などの一般的な組織には通達されず、暗殺組織や諜報機関にだけ知らされる。

   認定された人物は生死を問われず、高額の懸賞金をかけられ世界中にいる裏組織から狙われる立場となる。


   動揺しているいまなら、多少強引に事を進めても怪しまれることはない。 そう考えた私は立ち上がり力説した。


  「帝国の平和のため、理想の国家を実現するため、危険な彼女を一刻でも早く止めねばなりません! そのための認定です。 ガーランド陛下の決も頂いております。 いまから採決を取りますので、認定に賛成の方、挙手をお願いします」


 




  「さすが、ガーランドが見出した女だな」


   会議室を出た私に声をかけたのは、アズライル・ヴェルトハイムだった。なれなれしい態度で近づき肩に手を回してくる。

   気持ち悪い触り方に悪寒が走り殺意が込み上げたものの、嘘で固めた笑顔を向けてこう言ってやった。


  「陛下を呼び捨てにしたこと、ゼルマ様に言いつけますよ? あとこのセクハラも」


   アズライルは私の反応に対し「フンッ!」と鼻息を荒げ、立ち去っていった。

   あんなのが宰相をやっていて大丈夫なのかと思ったけど、正直この国がどうなろうと私は一向に構わない。

   さっさと帰って休みたい私は、魔術を発動し自室へ帰った。


   部屋に帰った私に「早かったわねヴィラ……上手くいったの?」と声をかけてくる人物がいた。

 

  「もちろん、私の策略は完璧よ。 これであの子は世界中の組織から命を狙われる立場になった。 もう少ししたらアナタも自由に動けるようになるわよ、アイネ」

   尖った耳をピクッとさせた金髪碧眼のエルフ、アイネ・クライネ・ナハトムジークは、嫉妬心に駆られた表情で私を睨む。


  「アイツは私が殺す。 邪魔するヤツらも全員。 それだけは譲れない」

  「構わないわ。 私はあの子が死ぬならどんな形であれ大歓迎よ」


   マーリン・エムリスの仮面をとり、魔術でいつもの黒髪に戻した私は、お気に入りのソファーに身体を預ける。


   これでひとつめの目的は達した。 明日、会いに行かなきゃ行けない人物がいる。 その子も始末すれば、あの方に褒めて貰える。

   私の中に疼く欲望が、あの方に解放されるのを待っている。

   そのためならどんな手段も使うし利用する。 誰にも邪魔はさせない。


   --たとえそれが神であろうと。

 

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