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マリアナに堕ちたのは親友ではなく、私でした。

『助けて! 殺されちゃう!』


 この一言を聞いた天海愛華は、消息不明の親友である竜宮多美子を探すため、ノートパソコンを駆使しながら、唯一の手がかりであるマリアナウェブに侵入する事ができた。


 しかし、そこで『人体オークション』というサイトに入ってしまい、仮面を被った謎の人にハッキングされた挙句、『住所を特定した』と脅されてしまう。


 そして、謎の人の依頼を受けた殺し屋のリルドが、彼女の部屋に乗り込んできたが、彼の口からは、とんでもない事実を聞かされ……。


 これは、ネットの海に住む闇社会の住民を巻き込みながら、『本当の自分』と失踪事件の真相を求め、24歳の女性が苦悩しながらも奔走するミステリーホラーである。

 テーブルに置かれた免許証には、天海愛華(あまみあいか)。24歳。と書かれている。

 なので、私は密かに財布にしまうと、ある事を調べるため、黒いノートパソコンを起動する。


 それは、同い年の親友、竜宮多美子が突然、私の前から消えた事がきっかけだった。


 失踪前夜、約束の時間になっても、彼女からの連絡が全く来なかった。

 なので、心配になった私は、Aohato(アオハト)の個別チャットに『どうしたの?』て言葉を送ってみたら、3分後に着信。



『助けて! 殺されちゃう!』



 しかし、その一言を残したまま、通話が途切れたのだ。


「ねえ! どうしたの! ねぇ!」


 私は泣きながら呼んでいたが、プー。プー。という通話音が、耳元で響いていた。


 まさか、事件に、巻き込まれた!?

 

 そう思った私は、彼女の友人や親族に連絡をとったりしてみたが、二週間経った今でも、彼女に関する手掛かりや情報が一切入って来ない。


「そういえば……」


 ふと、彼女が住むアパートに遊びに行った時、あるウェブサイトの存在を思い出した。


 それは、大きく4つに分けた、ネット階層の中の最下層にある『マリアナウェブ』と呼ばれているウェブサイトだ。


 (うわさ)によると、そこには闇社会の住民が住んでいるから、かなり危険だと言われている。そのため、素人が気楽に覗いてはいけない。と、Aohato(アオハト)のつぶやきに書かれていたのを見た事があった。


 もしかしたら、興味本位で入ってしまい、事件に巻き込まれてしまったのではないかと思うと、心配で気が気じゃなかった。


 なので私は、失踪前の彼女から貰った合鍵を使って開けると、玄関へと入り、チェーンをかける。

 そして、テーブルに置かれたノートパソコンと免許証を見つけたので、足取りを調べてみることにした。


「お? これは……」


 ふと、玉ねぎマークが目印の検索画面が出てきたので、試しに『行方不明の女性』と検索してみる。


「何これ? こんなの、見たことない!」


 すると、語尾が『.loky』と綴られたサイトのURLを見つけた。


「じ、人体オークション!? 気味が悪いなぁ。はぁ」


 ため息をつきながらクリックしようとするが、タッチパッドに触れる右手が微かに震えた。


 怖いけど、これも親友を見つけるため。


 なので、心にそう言い聞かせながら、恐る恐るクリックすると、画面が突然、黒へと暗転した。と同時に、『Now Loading』と白い文字が浮かび上がってくる。


「ふぁっ!?」


 驚きの余り、変な声が出た。

 内心、恐怖で押し潰れそうだ。


「んん?」


 そして、白い文字をクリックすると、灰色のコンクリートでできた、床と壁だけの部屋が画面に映し出されていた。


「何。これ……」


 しかも、中は値札みたいな番号が付けられた女性が4、5人ほど並んでいて、とても異様だ。まるで海底船の船員みたいに、窓越しで深海魚を見ている気分になる。


「あれ?」


 すると、女性の中に、親友と似た人を見つけた。シルクの様な艶のある黒髪。目鼻立ちも整っていて、美人だ。なので、他の女性よりも値札がとても高かった。


「多美子!? 多美子!」


 これ、人身売買。だよね。

 どうしよう。証拠! 残さないと!


 なので、刺さっていた赤いUSBに保存しようとした時だった。


「あれ? メニューがない!?」


 どこを探しても、なぜか右上にあるはずのアイコンや×マークが見当たらない。嫌な予感がしてくる。


「ええっ!?」


 すると、画面が突如変化し、不気味な白い仮面をした人が、こちらを睨みつけてきた。性別までは分からないが、黒いフードを深く被っており、見るからに怪しい。


「まさか……」


 何回も削除キーを押しても、ビクともしない。多分、画面に映っている人に、ハッキングされたんだ。

 恐怖で心臓の鼓動が止まらぬまま、ディスプレイを見続けていると、画面の人は開口一番にこう告げてきた。


『貴様の行動は、全てお見通しだ』

「えっ? どういう事?」


 ロボットみたいな無機質な声だったが、私は相手に気取られない様、冷静でいるフリをする。


『まさか、このオークションの存在を、サツに売る気じゃないだろうな』

「違う。私は……、私は、そこに映っている女性を助けたいの!」


 なので、声を震わせながらも、強く言い返したりしたが、画面の人は声色を変えず、淡々と話し続けている。


『助けたい? 何を言っているんだ。貴様は馬鹿か』

「はぁ?」


 それに、辻褄(つじつま)が合わないこの人の会話は、パソコンを壊したかったほど、頭に来ていた。


『それに、このオークションは、国家機密だぞ。知ってしまったと言う事は、分かっているんだろうな?』

「ここ、国家機密!?」


 つまり、多美子は機密情報を知ってしまい、巻き込まれた。という事?


 突然の言葉に動揺を隠せない。


『そちらの住所も把握済みだ。逃げようとしても無駄だぞ』

「え。うそ……」


 なので、唖然としてしまったが、住所なんて、ネット上のどこにも公開していないし、このパソコンは私のではない。なのに……。


『それとな、貴様の事も調べてみたが……、まさか大きな罪を犯していたとはな』

「えっ。何!?」


 なので、必死に首を横に振ったが、怖さのあまり、気持ち悪くなってしまった。

 でも、大きな罪を犯していた。っていうのは、どういう意味だろう。全く記憶がない。


「ん?」


 ふと、画面の上辺りを見ると、小さなレンズが付いている。


「これって、インカメ……」


 そう。このノートパソコンには、インカメラが搭載されていたのだ。

 鏡の様に反射された液晶画面には、私のバサついた黒髪と、やつれた顔、シワがついた赤いパーカーが映っている。


『せいぜい、もがき苦しむがいい。貴様はいずれ、消される運命だからな』



――ブツッ



 そして、相手は偉そうに言い放つと、画面は切れて真っ暗になってしまった。


「あぁ! もう!」


 私は苛立ちを募らせながら、思いっきりノートパソコンを閉じる。



――ガチャガチャガチャガチャ



 すると突然、ドアノブを強引に回す音と、チェーンを切る音が、静寂な部屋の中で響いてきた。


「なに!?」


 壁掛け時計を見たら、既に夜中の3時を過ぎている。


 一体誰だろうか。近所迷惑もいい所だが、あの仮面の言う通りだとすると、本気で私を殺しに来たって事?


「まさか……」


 身の危険を感じた私は、急いで逃げる準備をした。


「これ、持っとかないと」


 ふと、パソコンに刺さっていたUSBを急いで引き抜くと、黒いジーンズのポケットにしまった。



――ガシャーン!



「ひぃ!」


 物を盛大に壊す音が近くまで聞こえてきたので、勢いよくベランダの窓を開けた時だった。



――バァーン



 背後から派手な物音がしたので、驚いて振り返る。


「え? 誰!?」


 すると、グレーのパーカーと青いジーンズを着た大柄の男が、扉を壊しながら堂々と部屋へ入ってきたのだ。


 顔はフードを深く被っていたせいか、目元までは見えなかったが、右頬には横縞の傷が6本ついている。

 右手には鋭利なオノが握られていて、まるで、地獄から迎えに来た死神の様だ。


 こいつが多美子を……。

 いや。その前に逃げないと!

 だけど、体が思う様に動かない!


 その間にも、彼はこちらに向かいながら、妙な事を口にする。


「お前は誰だ?」

「私は……、天海、愛華です」


 なので、免許証に書かれた通り、正直に答えるが、彼はなぜか首を横に傾げている。


「おかしいなぁ。天海愛華は、あのオークションに出ているぞ」

「えっ……」


 私は驚きと怖さのあまり、腰を抜かしてしまった。そのせいか、足に力が入らない。


「その様子だと、記憶喪失か何かで全く知らない様だな。身分証を見せろ」

「は……、はい」


 そして、彼に言われるがまま、財布の中に入っていた車の免許証を取り出すと、そっと渡した。


「これ、偽物だ!」

「偽物!? じゃあ、本物は……」

「恐らく、アイツが商売目的で持っているだろう。仕方ない。特別に教えてやる」

「どういう、事、ですか?」


 私は後退りながら、恐る恐る答えると、彼は斧を足元へ放り投げ、こちらに向かってきたのだ。


「お前はな、愛華達に利用されたんだよ。金儲けの為に、身分を証明する物全てを、闇サイトに売られた。ってとこだな」

「えっ……」


 驚きのあまり、思考が停止してしまった。


「それと、俺は仮面野郎の依頼で来た殺し屋さ。名はリルド」

「……」

「本当は依頼通り、お前を殺そうと思ったが、そのアホ面を見て気が変わった」

「アホ面って、あのね!」


 なので、私は思わず怒って言い返そうとした。だけど、彼のフード越しから微かに見えた、翡翠色の目が綺麗だったせいか、言葉を失ってしまう。


「そういや、お前は知りたいか?」

「えっ?」

「こうなっちまった、原因だ」


 そして、彼は目線を合わせるかの様にしゃがむと、パーカーのポケットから果物ナイフを取り出し、こう提案してきたのだ。


「俺と共に来るか? ()()()()()

「……うん」


 なので私は、マリアナに堕ちた『私』の真相を探すため、『闇社会の住人』として、ナイフを受け取ったのだった。

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