怪盗ブレイブ&ヴァンプ ~怪盗なのに写真とか人形とか出回っています~
ここはアクーノ王国。昔、魔王の城に住む魔族たちを一掃し、人類が城を占拠し、周辺国家を吸収して出来上がった王国。国家設立100年目にして、巷では。怪盗と名乗る者共が、日夜騒がせておりました。
その名はブレイブ&ヴァンプ。鮮やかな手口で【神魔品】を盗んでいく彼らは一体どのような、存在なのでしょう……。
「よし、ヴァンプ。こんどこそ俺のブロマイドでボロ儲けしているやつをぶっ飛ばそうぜ」
「ねえ、ブレイブ。私達怪盗なんだから、売上資金だけ泥棒しない? ウィンウィンな関係ってやつで」
彼らは、決して、多分きっと、お金にがめつくなく、そして姿もバレていない、華麗な怪盗なのでしょう。
国家公務員にとって怪盗は、クレームを寄越す迷惑客と同様である。
わざわざ存在を証明して揚げ足を取る、それが今回だと【神魔品】を確保する為の陽動であることは、このアークノ王国では共通認識であった。
「おい!今回も侵入されたのかよこの城!」
「ああそうだよ!」
「安定感があるって豪語してたじゃねえか!」
「知るかよ!俺の前世でも希少種なんだよ怪盗はよ!!」
片方の兵士が手に持つ、長方形に棒が取り付けられた機械を、握りしめ苦い顔をする。
「連絡はきたか?」
「ちくしょ、こねえ。最近博士がなんか兵士達に通達してた、通話妨害でもやられてるんじゃねえか?」
「案外ありえるな。怪盗のやることだ。最悪を想定したほうがいいかもな」
兵士は使い物にならなくなった四角形の端末、トランシーバーと呼ばれるものを投げ捨てて門へ向かう途中。異変に気がついた。
先程から、兵士たちが増援を呼ぶ為にこちらに向かって来ない。怪盗を陣形で囲んで叩きながら進んでいても、おかしくは無いのだが。
「一応通信できなくなったときは三種類あったよな……?」
「鳩を飛ばす、矢文を飛ばす、人を飛ばす。三種の飛ばしがある。経験がないから全部やる手筈だが」
あたりを警戒しながら門へとつながる廊下を曲がり。
彼らは、件の超弩級問題児、怪盗ブレイブ&ヴァンプに遭遇する。
「……あーそこの兵士たちよく聞け。頼む一生のお願いだ」
「あの、ブレイブ? もうそれ無駄じゃない?」
立つ二人は対象的であった。かたや身軽そうな青い服装にマスク。装備は剣と軽盾。こっちが怪盗ブレイブ。
もう一人のヴァンプは怪盗にふさわしく、黒い外套に胸で軽く盛り上がったタキシード。美しい銀の髪。武装もしてなくマスクがなければ、到底犯罪者だと気が付かなかったであろう。
「き、貴様らが怪盗か……そのなんだ。吸血鬼はともかく、おまえそこの絵画の勇者そっくりだなぁ!」
「ほんとだ……絵本で見たまんまの背格好なんだけど……最近露天で人形買ったわ……」
なのだが、兵士たちにとっては、見覚えがありありの武器を持ち、格好もそのまんま。なんなら未だに世間で出回っている、勇者の写真にそっくりだ。デフォルメぬいぐるみも出回っている。売り文句は100年前から変わらないこのお姿!である。
ブレイブは、兵士の言葉に肯定の意を示して次に続けた。
「そうだよ、なんで最近になって俺の格好とか派手に知れ渡ってんだよ! 困るわ!怪盗させろや!!だから、諸悪の根源をぶっ叩きに来たんだよ!! ふざけんな!!肖像権とかあるんだぞ!」
「何権かは知らないけど……とりあえず、そうなんだぞ!」
「ふわふわだな怪盗共……」
うだうだする様子に毒気を抜かれる兵士たちだが、目の前にいるのは捕縛対象である。
両者は、一旦深呼吸。仕切り直して獲物を持ち。
「まあいい、怪盗ブレイブ&ヴァンプ!ここで、俺たち。アイアンブラザーズにあったが百年目、覚悟!」
「おお、お前たちがかの有名なあの……あの。うんまあ、知らない奴」
「ブレイブ、ヴァンプちゃんでもここは空気を読むよ」
○
数分後には、鎧がベコベコに凹んだ兵士が二人。そこにヴァンプが両手を、それぞれの首元にぷすりと突き刺すと。
虚ろな目をした兵士が二人、出来上がる。
ヴァンプの能力 『眷属化』である。
「よーし簡単な眷属かーんーせーいー」
「記憶を再現して巡回ルートを合わせろ。俺たちは影に潜んで目的地までいく」
「やっぱ最高、ヘイビバ洗脳!これで見つからず行けるね!」
さくっと影に飛び込むと。兵士が虚ろな目で、来た道を引き返していく。命令を出せば、日常業務になっているであろう巡回ルートを辿っていくので、目的地についたら乗り捨てポイするだけだ。
影に飛び込み、踏み締められる面がある所で座り込む。
「で、目的の箇所はどこだ」
「まってね記憶読み込む……むむ、この進んでる通路を行けば隠し部屋まで……この兵士、この場所教えられてる時点で地位高いんじゃない?」
影の中は割と広く、座ることができる広さがある。ここは、ヴァンプが持つ能力で侵入する事ができて、高確率で他人に見つからない場所であるので、難攻不落でも、すんなり入り込める能力である。
「そいつ、前世が日本人だろうな。 そうするとお国柄、礼節はある程度持ってるだろうし、勉学の素養が出来てるから出世しやすいでしょ」
このアークノ王国が存在する世界には、前世の記憶をもった生命体が一定数存在する。人間体に転生しているのは良い部類で、魔術の素養があれば魔物にも生まれ変わる。
「……あー確かに、前の記憶でも上にペコペコしてるわね。うわお、今の記憶でも、ペコペコしてるわ」
「アイアンブラザーズも大変だな……」
その後、目的地までの通路を確認する以外にめぼしい記憶もなく、むんむんと唸っていたヴァンプも飽きたらしく、辞めた。
「あー、めぼしい記憶がもうないね」
「じゃあ、確認するか。例の博士から聞いた情報はどうだ?」
「通信阻害の奴だね、モロに効いて良かったよねえ!」
このアークノ城では、通信端末【トランシーバー】が最近配備されていたのだが、それは内部の協力者の仕込みである。
「お陰ですんなり入れたしな。で、まあ今回侵入した原因であるこの端末、ほんとに【神魔品】由来のものなのか?」
「それだから今回侵入したもんね」
【神魔品】とは、現行文明を超越する力を持った存在である。種類としては様々で、超電磁砲から神の死体など。雑多に種類が多いこいつらの共通点は総じて、国家を滅茶苦茶にするということである。
「魔王城を占領した国王が収める城から、そんな噂が聞こえたら急ぐよな」
「だねーこのまま行けば完璧!!」
「まあ、油断すんなよ?」
てへぺろ、とばかしにベロを出すヴァンプ。可憐な容姿と相まって絵になる。
「で、話変わるけど。 多分これ、前世持ちの由来品だよね。昔、勇者として戦った時に見たことある?」
プラプラと、手に持ちぶら下げる端末。未だに城が防衛に適した物だと評価されるこの世界では、過ぎた物である。
「100年前に魔王の娘が使ってたような、てのは予想できるんだが……」
「予想?」
なおこの勇者、諸事情で100年前から今の年代に飛ばされている。
「前にこの城攻めた時には、夜襲でしかも魔王軍を二分にしてたのに、連絡とってるってぐらいボコされてな」
かつての勇者はあの状況に思いを馳せながら推測する。
「遠隔通信魔法潰しなんざ昔からある古典芸能で、ガチガチに妨害してたのに、マジで鬼強し」
「めちゃくちゃ準備して挑んでたんだね……」
「そんなわけで、娘が魔法も強くて兵器も作ってが出来たから、端末も作ってたろってのが結論だな」
ふんふんと、そこまで話を聞いてたヴァンプ。いかにも真剣そうな顔だ。
「で、ここまでの話わかったか?」
「いやー吸血鬼のお姫様としてはさっぱりでー」
「……怪盗仕事には関係ないしいいけども」
「まあまあ、とりあえず来たよ例の場所」
そんなこんなで、影から身体を出す。辺りは暗く、湿っており、ネズミが走る音、水滴がしたる音が反響する廊下の果てに、その扉はある。
「とりあえず、100パーセント鍵あるから。ブレイブお願いねー」
扉の前にブレイブが立ち、鍵穴に手を近づける。
「あいよ。『光よ、正しさを示せ』」
ポわっと光り、扉が開いた。その先は暗く、何があるか分からないが、怪盗二人は足を進める。
「いやー神様の奇跡便利だねー」
「神が信じる道は、踏破可能。その眷属も可。という性能らしいが……凄いよな」
ぶつくさ言いながら、暗い廊下を灯りをつけずに進む。
二人とも暗視が出来るような訓練や、身体的機能がある為問題ないのだ。
「ん?」
「お」
そうして、2人の目には。横に長い木箱が現れる。形的に、棺桶だ。
「めっちゃ嫌な予感がする」
「え、ブレイブザッコ。なんかこの物体、チョロい雰囲気ない?」
そんな会話をしていると。ガタガタと震え。
「あなた、勇者じゃない!!!!」
ガバァ!と棺桶の蓋が開き、ブレイブは何者かによって覆いかぶさられる。それと同時に舞い散る何らかの紙。
そして、棺桶の中の発光体によって辺りが明るくなる。
「会いたかった……あなたが消えてから100年間。【神魔品】とか訳わかんない扱いを受け、機械を作り続けて、ようやくあえましたー!!うえーーん!」
「……ね、ねえブレイブ。この中身わかる? あ、ちなみに他は舞い散った物はわかるよ。アンタの顔写真いっぱいだからね」
ドン引きな表情をみせるヴァンプ。
思いっきり地面に頭をうちつけ、痛む箇所を抑えながら被さった女をどけるブレイブ。
「……痛い、とっても痛い。とりあえず訴訟させてくれ。泣きたい」
「おーい、そこの抱きついてる人ー誰ぇー? ほら答えて答えてー吸血鬼パワーで吸い取っちゃうよ?」
「ずみばぜん」
ずびずび、とブレイブに顔を埋めておいおいと泣きながら彼女は告げた。
「私は魔王の娘のコスモ! 趣味は勇者様の写真閲覧!グッズ制作!今後はストーカーに転向します!!気軽にコスモちゃんって呼んでね?」
ブレイブの異常なまでの認知度の原因が判明した。
かんたんにいえばそう、ストーカーが文明と権力を駆使して推しの布教活動をしていたのだ。