Magic And Machine
人類は進歩し、科学は発展した。
それにより魔法は前時代的と呼ばれ、魔法を履修する者は世の中からかなり減った。
魔法は世間から馬鹿にされる対象となりつつあった。
今は機械の時代である。
そんな中、前時代的な魔法学校へと通うアヴェール。
彼には魔法を学ぶ理由があった。
魔法を悪用する犯罪組織、魔装兵。
その魔装兵を倒す、ヒーローになる。
それが、アヴェールの魔法使いになりたい理由、だ。
しかし、機械学校の生徒からは馬鹿にされる一方、言い返すことも出来ない。
そんな中、一人の女性が現れる。
彼女は魔法と機械を両立して使っていた。
──これは、魔法と機械のヒーロー物語
先生はメガネを拭き直して、また掛けてから、
「世の中に魔法理念が生まれたのは今から凡そ二千年ほど前の話だ。それから魔法は凄まじい発展を遂げた」
と言った。先生は身長は百七十くらいの一般男性だ。
先生は魔法板に指で何か書き出す。
「当時の錬金術と同等の盛り上がりを見せた魔法だが、それは今日でも見られる。それは街中、或いは家庭。日常の多くに魔法は役立っているな」
先生は俺の方を見た。見たというか、凝視した。
「…アヴェール、私の話を聞いているか?」
俺はもちろん話を聞いている。
「はい」
「…ふむ。では現在、魔法を悪用し世の中を脅かす組織は?」
「魔装兵」
「正解だ。お前たちも知っての通り、魔法が発展すると共に、その強大な力をもって、己の力に陶酔し悪の道へ走る輩がいる。それを総称して、魔装兵と呼ぶ」
──ドゴッ!
先生は、突然教壇に何かを載せた。
イカつい機械のようだが、歩行補助の道具に見える。足につけるのだろうか。
「これが何だかわかるか?これは、魔法補助具だ。魔法を使用するのに補助する道具だ。…じゃあ、カイロ」
「あっ、えっ、はい」
俺と同じクラスのカイロが当てられた。
いつもオドオドしているので少し気に障る。
「空気中に魔素は何パーセントあるか知ってるか?」
「え、っと、一パーセント……?」
「……ふむ」
先生は少し間を置いてから──
「合っている。正解だ」
拍手をした。パチパチという音が虚空に響く。
「空気中には魔素と呼ばれる魔力のもとがおよそ一パーセント含まれている。そして知っての通り。この魔素、というものはそれだけで魔法には出来ない。では、どうする?アネーロ」
「はい。魔素を空気中から体内へ取り込み、それを魔力へ変質させ魔法を発現させます」
秀才な女、アネーロが応えた。
「その通りだ」
またもや先生は拍手をして、それから手を広げた。
「魔素は万能原子とも呼ばれ、生物しか持たない魔力回路というものに吸収される。それは皮膚から、鼻から、口から、魔素と接しているあらゆる場所から吸収可能だ。そして、魔素は魔力回路を通じ魔力というものへ変質する。これは、体内の酵素が自動的に行ってくれるものだ。そして、その魔力は、あらゆるエネルギーに変換できる。これが、万能原子と言われる所以だ」
それは有名な話で、やろうと思えば体から電気を出すことも火を出すことも可能だ。
「そして魔力を変換し魔法へと変質させたものはやがて霧散し、また魔素へ戻る。こうして我々は魔法を利用している。そう──」
「……」
先生は何故か、俺の方を向いた。
「──魔装兵から市民を守るためにな」
授業終了の鐘が鳴った。
「丁度いいな。今日の座学はこれにて終了だ。お前たちの次の授業は実技だ。教習場に集まっておいてくれ」
◇
俺は公立の魔法学校へ通っている。
魔法学校は前時代的と言われ、あまり進学する生徒もいない。
確かに今は先進的な物が出てきて、魔法なんてものはただの補助、豆腐にかける醤油のような存在になってしまった。
しかし何故か、魔装兵の強大化は未だに止まらない。
国が力を挙げて軍隊を派遣するも、撤退。
「国を撃退するほどの魔法か」
俺は、少し遠くにある機械戦闘科の高校を思い浮かべ少し羨ましく思った。
「機械で戦闘。魔装兵も機械には敵わない、か。笑える。魔法の時代はもう終わりかなー」
とはいえ俺は魔法学校へ進学した。
その理由は──
「……実技試験を開始するぞ?アヴェール?」
「……ッ!?は、はい…ッ」
先生の顔のあまりの近さに驚く。全然気づかなかった。
教習場は広く円形で、床は柔らかい土で出来ている。
「……とはいえ、いつもいつも同じ演習とそれから魔法ではつまらないだろうから、今日は特別ゲストを連れてきた。どうぞ」
……!
上空から、甲高い悲鳴のような音がする。
何かが、飛んでいる?しかもひとつではなく、複数だ。小さくてよく見えないが……
「嘘だろ……あれ、は!?」
「なんだ?飛行機?にしては──」
小さすぎる。
「あ、降りてくるよッ!」
クラスの生徒がそう言った。
その瞬間。
──シュダッ!と、それは着地。
轟音と共に爆風が俺の身体を押す。
倒れ──そうだ。
「う、ぐっ!」
「む?このような軟弱者しかおらんのか、魔法学校とやらは、ははっ」
「……っ!」
それは背中にジェットパックを背負った男。
「俺は機械戦闘学校のリンデだ。俺が一応クラスの長なんだが……降りておーい!」
シュダッ!
爆風がまた押し寄せる。
「う」
思わず手で顔を塞ぐ。
「……」
何がどうなっているのか。
クラスの生徒が皆先生の方を向いた。
「特別ゲストだ。近くの機械戦闘学校の生徒たち。今日は、この組み合わせで模擬戦をしようかと思う」
「「「ええっ!?」」」
「ルールは各自で決めても構わない。ただお互いが合意し、尚且つ危険じゃないものだぞ」
◇
──魔法は機械には敵わない。
これは核爆弾が作られた当初の方によく言われたことで、それに間違いない。
「……そんな、無茶ですって!」
「無茶じゃない。さ、がんばってくれ」
先生、そんな笑顔を見せられたって我々はどうすることも出来ません。
「……あのさ、私たち本気で来てるんだけど?」
「……え、お、あぁ」
カイロがキョドキョドしながら応える。
「やる気がないなら、やらないで。こんな中途半端な人たちとは戦いたくもありません」
「……」
魔法をかじっても無いのによく言えるなあ、この人…
「あ、あの〜」
アネーロが手を挙げた。
「じゃあ、勝ち抜き戦にしませんか?」
「…ふざけてるの?」
「いえ、ふざけてません」
「……?」
「機械と魔法では大きく違いがありますが、それは優劣に差があるという違いではありません!」
「……はぁ。では、やりますか?私一人で充分ですので…」
呆れた調子で機械学校の女が言った。
◇
──数分後。
「ボッコボコじゃないですか〜やだ〜」
「ぐは…っ、魔法を出す暇さえ、与えられ、なかった…」
「弱すぎます……」
「…最後は、俺か?」
「…あー、残念でしたね。まぁでも所詮魔法学校なんてものはこんなものでしょう。今どき古いんですよね、魔法学校って。魔法って何がいいのか全然分かりません。機械の方が良くないですか?普通に考えて。だってそうでしょう?」
「……そうか?」
俺は手の開閉を数回繰り返した後、
──肉体強化…!俊敏!
静かに己に魔法をかける。
魔力の流れが見えない奴らにとっては好都合。
「その程度は見えてますよ…?」
「なっ」
「しかし、何の魔法を使ったのですか?まぁ、いいです」
スタスタと女は歩き出した。無防備に。
「この模擬戦って意味あったんでしょうか?」
「…」
相手は勝利を確信している。
俺は、構える。
集中。
集中しろ。
倒れた仲間を見るな。
「では、さようなら」
肉体補助のために付けられた装甲から光が吹き出し、瞬足で相手を蹴飛ばす。
何人もこれにやられた。
だったら、カウンターをお見舞してや──
「かッッは、コヒュッ!」
機械学校の女が急に嘔吐く。
「………は?」
目の前に黒ずくめの男がいた。ありえない。いやまさか。
「ま、ま、」
魔法兵!?
透明化で隠れていたのか!?
いや、それよりも、機械学校の女の子!
腹部に男の手が貫通している!?
「死を知れ」
男は淡々と言った。
誰も、動けない。
そこから。
なんという威圧感。息が、詰まる。
先生さえも、動けない。
これが──
──これが恐怖……ッ!?
「……」
男は機械学校の女の子から手を抜き、他の子へと手を向けた。
「ぃや、っ!?た、っ、たす、助けて」
身体が、足が震えて動かない。
「──死ね」
「何、ボーッとしとんじゃこらァァあぁあぁあぁ!!」
──突然、女性の声がした。
──見えなかった。
それほどの速度で魔装兵は吹き飛んでいく。何が起こっているのか理解出来ない。
目の前に颯爽として、機械に身を纏う女性が現れた。
その女性は、銀髪の長い髪を靡かせ、機械学校の女の子を抱えていた。
「この子は後で治療するとして、アンタ」
「お、俺?」
「アンタ魔法のセンスはいいね…今から私とアイツをやらない?」
「は?え?」
「私はね、魔法と機械両方を扱うハイブリッドなの。分かる?分かったね?じゃあ今から──アイツをやるわよッ!」
「なん、えっ?…はいッ!」
彼女はそう言うと吹き飛んだ魔装兵の方へジェットを使って向かう。
俺もすかさず、走って援護へ向かう。もう足は動くようになっていた。
先生が何かをボソッと言ったのが聞こえた。
援護へ向かうのに夢中でよく聞こえなかったが。
「……まさか実在するとはな…唯一無二の、魔法と機械のハイブリッド…魔法機械戦士、MM……」
──これは、幾多の批判を浴びながら生活する彼女と共に、魔法と機械で悪を蹴散らすストーリー──