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裏社会アイドル楽園

私はアイドルグループ、おかしまちgirlsに所属している。

だけど地味な見た目の私は皆から厳しくされ、ライブに出してもらえないこともあった。


久しぶりのライブでは何の役目も与えられず、外をあてもなく歩き回るしかない。

ライブから戻ってきた皆は、その場にいないメンバーの早苗の悪口で持ちきりだった。



その日、早苗はみんなが見ている前で学校の屋上から飛び降りた。


原因はどう考えてもいじめ。私は意を決していじめがあったことを警察に言う。


脅される覚悟はしていたけど、みんなは正直にいじめのことを話していて、あのことがバレるくらいならいじめの方が良いと言い出す。


いじめで自殺させるなんて一生ついて回る罪なのに、それ以上ひどいことって……!?


その後グループのメンバーが次々と命を落とし、早苗の呪いは私にも迫る……



残酷な描写があります。不快な場合読むのを中断してください。

 私、優芽(ゆめ)は人気アイドルABC26に憧れてアイドルになった。

 所属しているのは河岸町(かしまち)学区を中心に活動するグループ、おかしまちgirls。六人のメンバーは全員同じ中学校に通っていて、学業との両立のため定期ライブは隔週土曜日。


 しかしここ二ヶ月間ライブがなく、学校創立祭の今日やっと開催することができた。


 私の学校は不思議な作りになっていて、校舎の中に教室一つを改装したみたいな、小さなステージがあった。


 場所は一階の渡り廊下のすぐ近く。


 関係者の出入口は教室のドアじゃなく、切り抜かれたような外壁を外して入る。


 外すとその先は坂になっていて、下るとステージの下になっている。床を掘り下げたここは高さ二メートルもなく、大人の男の人はずっと屈むことになる。


 吊るされた電灯と鉄格子みたいな採光穴が、舞台裏に視界をくれる。


 久しぶりにライブが出来る、練習の成果を見せられる。そう思っていたのに着いた途端


 ステージ狭くてあんたが出る場所ないから


 と舞台裏に置き去りにされた。


 私だけ出されないなんてよくあることだけど、久しぶりのライブだし流石に全員出すと思っていたもので、茫然としてしまった。


「あんた照明で消える地味顔だし出る意味ないよ」


 早苗が顔を見てクスクス笑ってくる。

 リーダーはわざわざついてきたんだから何か役に立ってこい、などと言い残し光ある方へ行ってしまった。


 私以外には七絵(ななえ)真那尾(まなお)の二人も残されていて、何あいつら横暴すぎる、お前らのために何かしたくねぇよと地団駄を踏んだ。


 せっかくの創立祭で体育館も使えなかったの? 誰か抜けていたら観客が疑問を持つよね。


 そんなことを思う。

 いじけてボイコットを表明し、非難の勢いが増す二人とは反対に、言いたいことはあったけどこらえた。


 舞台裏がこんなのでファンには申し訳ないな。


 ダンスの練習をしようかとも思ったけど、ここはあまりにも狭いし、外に出て練習したら振り付けをバラすなと怒られてしまう。


 幕間で使える小道具とか、別の曲で使えそうなアクセサリーはないか。あてもなく歩き回るけど、殺風景なここには何もない。


 初めの一曲が終わり、リーダーたちが気怠そうに流れ込んでくる。怒られるかと身構えたら、私以外を呼びつけた。

 二人は急な呼び出しに駆け足で向かい、打って変わって笑っていた。


 結局、今日怒られるのは私一人だ。


 私の扱いは明らかに良くないけど、私にはこのグループしかないし、耐えるしかない。

 親は勉強に専念して欲しくて、アイドルを目指すのは高校を出てからで良いと思っている。でもそれでは遅い。子どもの頃から経験を積む子も多いのだから、覚えの悪い私は悠長にしてられない。


 親はライブのために市外に出る、ましてや都会に通うなんて許してくれないから、高校を出るまではこのグループを抜けられない。


 舞台裏を抜け出し渡り廊下から反対の校舎に入る。入り口近くにある机に紙箱が置かれ、中にはアクセサリーが入っていた。


 私の学校は代々アイドルがいて、地域を盛り上げてくれるからと全面的に応援されている。

 その一つに、校舎の至る所にアイドル専用アクセサリーが備えられている。正直地域貢献なんて出来てないから申し訳ない。

 箱をがさごそと漁るけど、留め具が取れていたりと使えそうなものはなかった。


 それから校舎のアクセサリーを探すけど、曲に合うもの、使い物になるものがなかった。


 使わせてもらってるから文句は言えないけど、こんなに壊れたまま置かれてるとは。


 なんの収穫もなかった、これは怒られるパターンだ。諦めつつ階段を降りていると、渡り廊下から来たライブのはずの皆とかち合った。


「あ、おつかれー」


「おつかれさま」


 なんでもなさそうに声をかけてきて、私はぎこちなく会釈する。

 あんなにきつく当たっておいて、時折普通にしてくる神経を疑ってたけど、私の扱いなんか気分次第だと最近気づいた。


 ライブは面倒になって短縮したのか。何も聞かずに後ろについていく。


 それにしても機嫌がよくて助かった。

 なぜかと思っていたら、ここにいない早苗の悪口を言っているからだ。多分また体調不良とかで抜けたんだろう。早苗は男子にモテるせいで実は嫌われていた。

 本当は嫌だけど一緒に笑い、まとまって階段に差し掛かる。すると玄関の方から、黒服を着た男の人数人が異様な雰囲気で走ってきた。


 皆は顔を青くして階段を逃げ上る。非常事態だと察し、私もそれに続いた。


 皆は私を置いて階段を上っていき、どれだけ頑張っても届かない。鉄板が入ってるみたいに重い足を上げるけど、黒服の人たちが背後につく。もう駄目だと思った時、一目もくれず私の横を駆け抜けていった。


 なんだったんだろう。自分の危険ではないと知ると、途端に気の張りが解けた。


 それでも何事か気になるから、息を整えつつ追いかける。もう背は見えなかったけど、音のする方を辿っていった。


 皆が行ったのは四階の渡り廊下だった。黒服と見慣れた制服が集い、空に焦り声が響き渡る。


 人々に取り囲まれているのは、腕を取られながら身を乗り出した早苗だった。


「やめなさい! いい加減にして!」


「もうあんたはしばらく休んで! 何のためにここまで頑張ってきたと思ってるのよ!」


 説き伏せる余裕はなく思い思いに引き留めている。早苗の横顔は全く動じなかった。


 早苗の強張りが少し抜けた気がする。それは気のせいではなかったようで、皆少し安堵して、優しく引っ張り上げようとした。


 一瞬、早苗の真っ直ぐな横顔が笑った。


 緩められた手たちを全身で弾き飛ばして、真っ逆さまに身を落とす。


 早苗の姿が消え、心臓を抜くような風切り音がする。

 重い音がして、最後は早苗の思い通りになった。


 何が起きたか悟った私は、渡り廊下の入り口から中に引っ込む。慌てる声が聞こえるかと思ったら、野次馬たちは一切のほつれもなく平然と覗き込み、持っている人は携帯を向けた。


 写真を撮る人がいるのは知っていたけど、皆が皆平然としているとは思わなかった。


 通報しようにもまだ携帯を持っていない。

 誰かが警察に通報し、私たちと黒服の人は話を聞かれることになった。


 校外学習でしか見ないような警察署内に辿り着く。すっきりとした空間なのに重苦しかった。


 自殺の動機はどう考えてもいじめだ。

 知りながら止めなかった私も責任を問われるだろう。正直に言ったらみんなから殺す勢いで詰まられる。


 だけどここで言わなければ、早苗の死は闇に葬られる。そんなこと早苗の両親やグループ外の友達、そして早苗からしたら許せないだろう。最後くらい自分の責任を果たさないと。


「早苗は、グループの中でいじめられていました」


 正直に話すと、責めることなく拾い上げてくれる。だけど喉が詰まってそれ以上はいえなかった。


 話が終わって部屋を出ると、階段の壁の陰で皆が話していた。身構えて話に耳を立てる。


「動機はいじめって言っておいたよね?」


「当たり前、あれがばれるよりいじめの方が良い……!」


「遺書残してないでしょうね?」


「まだ見つかってないけど、やけに余裕あったからあり得る……!」


 信じられない言葉の数々に体が竦んだ。いじめで自殺に追い込んだ過去なんて、真っ当な人生を失ったのと同じ。


 それより知られなくないことって何……!?


 それからいじめの証言をするにあたり、私の扱いを話し始めた。何も知らない私を主犯格にするという意見があったけど、リーダーによって免れた。

 主犯格には見えないし、あのことを隠さなくてもいい立場だ、もし知ってしまったら話すかもしれない。


 リーダーの出した結論は、傍観者にしておくことだった。


 私の扱いを決めてから、聴き慣れない言葉が出始めた。


「やっとしじょうきのとに勝って最下位抜け出せそうだったのに!」


「残った私らだけでどこまでやれるか……」


 知られたくないことに繋がるのはわかるけど、どうしても頭に残ってしまった。



 わかっていたけどグループは無期限活動休止。


 グループに思い入れはないけど、私が再びアイドルになる権利はない、と夢に揺らぎが出ていた。


 登校停止を言い渡され、カーテンを閉め切った部屋でアイドルグッズを箱に詰める。本当なら学校に行くはずの時間に、夢を捨てるか迷っていた。


 結局答えが出ないまま、四日間のあまりにも短い停止が明ける。久しぶりに引き出しに触れた時、足音が教室に駆け込んでくる。


「真那尾が……交通事故だって!」


 真那尾は即死だった。それを受けてか、土曜日にリーダーから会議に呼び出された。

 当然私も来たけど、七絵が来ない。リーダーは苛立った様子で爪を噛んでいた。


 するとマネージャーが駆け込んできて声を上げた。


「七絵が落下物の下敷きになった!」


 これで呪いだという確信が走った。


 今いる人たちだけで、呪いを前提にして、どう生き残るか話し合いが始まった。


 神社や寺、ありとあらゆる場所を頼ろうとするけど、どこも今すぐお祓いとはいかないみたいだ。すると積極的にいじめなかった私は、呪いでも死ぬことはなさそうという話になる。


優芽(ゆめ)、私たちが除霊されるまでの時間稼ぎして! メッセージとか仏壇から早苗を挑発して、優芽(あんた)の番を来させるの!」


 リーダーは名案とばかりに、晴れやかな焦り顔で机を叩いた。

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