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花園地獄  作者: 九藤 朋
6/26

六、

 瑠偉は一歩、二歩、後退りした。あとはもう、何も見たくはなくて、駆け出した。

 雷光がまた部屋を白く染める。鮮はしなだれかかろうとするのを、するりと各務に逸らされた。カッとして各務の頬をぶつ。各務はそれでも穏やかな表情を崩さない。


「各務兄様、私、解ってるのよ。解ってるんだから!」

「何がだい、鮮」

「貴方たち、兄妹の癖して好き合ってるでしょう、そうなんでしょう、汚らわしい」


 各務の目が笑みを含み鮮を見据える。


「何のことだか解らないな」

「もう良い!!」


 癇癪(かんしゃく)を起して部屋を出て行った鮮はそのままに、各務は瑠偉の後を追った。

 今頃泣いているだろう妹を。今日の空のように泣き濡れているであろう妹を。


 瑠偉の部屋には天蓋付きのベッドがあった。その上で、身を丸く縮めて瑠偉は泣いていた。各務の予想通りに。瑠偉、と声をかけると細い肩がびくりと跳ねる。来ないで、と瑠偉はか細い涙声で言う。各務は構わず瑠偉に近づき、ベッドに腰掛けた。自分では出ない重みのある音に、瑠偉の胸がどくりとさざめきたつ。髪の毛を、各務が優しく梳いてやると、最初は抵抗を見せた瑠偉も次第に大人しくなった。


「お兄様……、鮮、は?」

「癇癪を起してどこかに行ったよ。僕が思い通りに行かなかったのが余程、口惜しかったらしい」

「でも鮮は、鮮とお兄様は、」

「僕らの間に何もないよ」


 ではさっき見た二人の姿は何だったのか。今もありありと浮かぶ、咲き誇る大輪のような鮮の艶めかしい姿。

 問い詰めようとしたが、瑠偉にはその勇気がなかった。


「証拠を見せようか」


 瑠偉の心を測ったように各務が言う。


 各務は妹の後頭部をくるむように抱えると、瑠偉の唇に口づけた。

 瑠偉は先程とは異なる意味で心が千々に乱れた。今、何が起きているのか解らない。しかも各務の唇は圧があり、舌が瑠偉の口内に入って来た。各務はそのまま、瑠偉の口を、歯を、舌を味わうようにじっくり絡んでくる。母猫が仔猫を丁寧に舐めるのにも似ていた。衝撃で瑠偉の涙はとうに止まっている。息苦しいくらいの口づけに、瑠偉は目を潤ませた。ふわ、と布団に縫い留められる。それから各務は瑠偉の着ていたネグリジェのリボンを解いた。


「……や、兄様」

「ね? まだ瑠偉には早いだろう?」

「私じゃ早いから、鮮と……あんなことしてたの」

「うん。僕はこれでも気が短いほうでね。酷い男だけど、鮮で代わりになるならそれでも良いと思った。結局、瑠偉の代わりなんてどこにもいないと思い知らされただけだけどね」


 各務は言い終えると瑠偉の胸元を吸って痣を残した。

 それは今の出来事を忘れるなという誓約のように瑠偉には思えた。



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