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花園地獄  作者: 九藤 朋
5/26

五、

 その少女は赤い紅蓮(ぐれん)を纏っているようだった。赤い絹のワンピースの胸元は大胆に開いている。男性ならば目の行き場に困るか、逆に食い入るように凝視するところだろう。瑠偉はこの少女が昔から苦手だった。引き換え、各務はにこやかに挨拶する。


「いらっしゃい、(せん)

「こんにちは。各務兄様」

「……いらっしゃい、鮮」


 すると鮮が、今気づいたように大きく目を瞠る。無論、わざとだ。


「瑠偉。いらっしゃったのね。小さくて可愛らしいから気づかなかったわ。ね、兄様?」

「瑠偉は小柄だけど、それとは別に可愛らしいからね」


 女性にしては背の高い部類に入る鮮に対して、瑠偉はやや小柄だ。各務の台詞を聴いた鮮は、鼻白んだ。

 彼女、日暮鮮(ひぐらしせん)は瑠偉たちの父方の従姉妹にあたる。昔から勝気で学校でも女王様のように振る舞い、そして各務にべたべたと纏わりついた。彼女もまたこの別荘に避暑に来たのだ。目的は避暑だけではなく、各務でもあるのだろう。そして鮮は、瑠偉のことを昔から何かと目の敵にしていた。それをさりげなく庇い、阻止しようとする各務には憤懣(ふんまん)を募らせる。

ガレを模した丸くオレンジ色の優美な灯の見下ろす玄関ホールで、鮮は瑠偉を睨み、瑠偉は身を縮こまらせ、各務はいつもと変わらず鷹揚に笑っていた。ゴロゴロと、遠雷の音がする。瑠偉には、鮮が雷雲を連れてきたように思えてならなかった。

 鮮のボストンバッグを客間に運ぶ柏木の後を悠然と歩きながら、鮮は瑠偉たちを振り向き、くすりと艶やかな笑みを零した。実は鮮は十六で、十七の瑠偉より年少なのだが、普段の振る舞いを見ていると、とてもそうは思えなかった。


 夜、激しい豪雨と雷に瑠偉は必死に耐えていた。


「空が怒っているみたい……」


 では何に対して怒っているのだろう。

 彼女は雷が大の苦手なのだ。小さい頃にはよく各務の布団に潜り込んだものだが、流石に今はそうはいかない。けれど、眠る各務の顔だけでも見ていたら落ち着くのではないかと、タオルケットを頭から被って各務の部屋まで来た。


「お兄様、いらっしゃる……?」


 控えめにノックをしてからそうっと扉を開ける。

 瞬間、カッと一際強い稲光が各務の室内を照らし出した。

 そこには、舶来物の半ば透けた優美なネグリジェを着た鮮の下になった各務がいた。


 瑠偉を見ている。

 いつもと変わらない眼差しで。






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― 新着の感想 ―
[良い点] 事件の予感ですね……
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