十八、
ぎりぎりの、盛り上がった水面。それ以上は零れてしまう臨海地点。
瑠偉は柏木に差し出されたオレンジジュースを見ながら、表面張力に、更に言うなら自分と各務の関係に想いを馳せていた。
あとビー玉の一つでも入れたなら、水は容易く溢れるだろう。溢れて卓上は濡れ、その始末に人が煩わされる。
つまりはそういうことではないだろうか。
自分と各務の想いが露見したが最後、蜂の巣をつついたような騒ぎになる。兄妹は好奇と偏見の目に晒され、別離を強いられるだろう。瑠偉はそんな事態だけはどうしても避けたかった。庭のパラソルの下、知らずストローを噛みながら、瑠偉はそう考える。各務はどう考えているのだろう。瑠偉の堕天を望む優しい兄は、それゆえに苦しんでいるのに違いないのだ。じわじわと蝉が鳴いている。
柏木が薔薇の手入れをしている。
いつも思うが柏木が薔薇を扱う手つきは女性に対するように慈愛深く情濃やかだ。
自分も好きだと言ってしまおうか。
それは瑠偉の心に差した魔だった。
だってそうすれば各務はきっと喜んでくれる。喜び、瑠偉を抱き締めて、……それから?
「考え事かい」
「お兄様……」
今日の各務は瑠偉に合わせたように和装だ。生成の芭蕉布に黒い帯をきりりと締めている。
「柏木が。そう、柏木が大変そうだなって思って」
「ああ。そうだね」
同意して横顔を瑠偉に見せた各務は、いつも通りの端整な面持ちだった。
瑠偉は絶望した。
もう無理だと思った。
「お兄様。各務お兄様」
「うん?」
「好きです」