十七、
天蓋付きのベッドで寝返りを打ちながら、瑠偉は愛について考えた。愛とはポップコーンのように軽いものかと思えば深海に沈む錨のように重い。つまり誰もその真の姿を定義出来ない。昔、何かの本で、真実の愛とは幽霊のようなものだ、誰もがその名を口にするが、本当に見た者は少ない、とあった。各務の愛は、ポップコーンではない。それが解らない程、瑠偉は愚かではない。また寝返りを打つ。冷房は十分に効いているのだが、落ち着かない気分なのだ。
以前であれば各務のベッドに潜り込んでいたが、今はとてもそんな恐ろしい真似は出来ない。……堕天を誘う各務は悪魔の類だろうか。違う、そういうことではない。各務はもう十二分に己の罪深さに打ちひしがれている。ふと涙が込み上げた自分に瑠偉は驚く。ああ、色彩の乱舞が、鳥の囀りが、蝶の羽ばたきが、それら全てが瑠偉を責め立てるようで、また、逆に慰撫するようで。私の居場所は、、私と各務お兄様の居場所はこの世界にあるの、と瑠偉は心中でどこかの誰かに問い質した。返る答えはない。涙はとめどなく流れる。瑠偉は顔を両手で覆った。
「各務お兄様……」
それは狂おしく切ない響きで、その声音だけで瑠偉が各務をどう思っているのか明白だった。血の繋がりという壁を隔てて、彼ら兄妹は確かに愛し合っているのである。そのことはもう、瑠偉にも否定しようのない事実だった。そして、だからこそ彼女は苦悩し、追い詰められていた。
通常の倫理観念からは遠く外れている。
けれど通常とはそれ程大層なものだろうか。古来、数多の命が宿り生まれてきた。それらの中に、瑠偉たちのようなはみ出し者が皆無だったとは考えにくい。瑠偉はいよいよ泣いた。か細い声がか細い咽喉から漏れ出た。それでも圧倒的マイノリティーであることを、知らない瑠偉ではなかったのである。瑠偉は自分と各務には先がないことを確信して、その晩を泣き明かした。
美しい空の夜だった。空に匂いがあれば薫り高く匂ったであろう、そんな夜だった。純粋無垢な少女が傷つき忍び泣くに相応しい夜だった。