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花園地獄  作者: 九藤 朋
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十四、

 したい放題にした鮮だが、別荘には留まり続けた。朝、食堂でドレッシングをかけたサラダを食べながら瑠偉たちのほうをちらちら垣間見る。それなりに思うところがあるのだろう。蝉は今日も朝から大合唱だ。真っ青な空が小憎らしいくらいに何も変わったことなどありませんよという顔をしている。瑠偉も各務も鮮を責めるでもなくそれぞれの食事を静かに進めていた。今日は各務が生成色の単衣の着物で、瑠偉が藤色のワンピースだった。瑠偉は殊の外、ワンピースがよく似合った。それを鮮は、忌々しそうに見ている。

 少しずつ歯車が狂い始めていると感じるのは瑠偉だけではないだろう。各務の神妙な顔つきからもそれは窺える。それを敏感に察するからこそ、ますます鮮は荒れるのだ。朝食を済ませた瑠偉はしばらく部屋で宿題をした後、庭のパラソルの下で柏木の出してくれたアイス・カフェオレを飲んでいた。向かいには各務。単行本をめくっている。長い脚を組み、単行本を読む仕草が堂に入っている。気温は高いが、柏木がホースで薔薇や芝生に散水しているお蔭で体感温度はまだそこまでではない。

 やがて各務が本を閉じて、ブラックコーヒーを飲んだ。この暑い中でもホットだ。こうしたところに、瑠偉は各務の大人な一面を感じ、隔たりを思う。すると、テーブルの下で、瑠偉の素足を撫でる感触があった。各務の足だ。瑠偉はびくん、と反応し、次いで柏木を見たが彼は何も気づいていない様子だ。各務の足先はそのまま瑠偉の細い脚を上り、ワンピースの裾にまで達した。


「各務お兄様」


 懇願するような、弱ったような声で瑠偉が呼ぶが、各務は微笑するだけだ。

 夏の青空は青い折り紙を四角に細かく(はさみ)で切って、貼りつけたようだ。各務もまた何かしらの思惑を切り取り、顔に貼りつけている。各務の足先は止まらない。瑠偉は真っ赤になった。


「柏木がいるわ……」

「いなければ良いのかい?」

「そうではなくて……」


 せめても、言ってみた言葉はあっさり退けられた。同時に、各務の足も退いた。瑠偉がほっとしたのも束の間、各務が今度は瑠偉の小さな手を取る。する、する、と掌の上を各務の長い指が踊るように動く。たったそれだけのことなのに、瑠偉はいとも簡単に翻弄された。


「お兄様、お止めになって」

「なぜ?」


 瑠偉の必死に絞り出した声はまたも軽くあしらわれた。各務は瑠偉の困る様子を見て楽しんでいるのだろうかと感じる。各務は瑠偉の手を取り、その甲と掌に口づけた。顔を上げ、楽しそうな、苦しそうな顔で告げる。


「僕だけの姫君」



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