十二、
その晩は冷製パスタをメインにしたものだった。
カチャカチャと食器が触れ合う中、気まずい空気が流れる。その空気の主の大半は鮮だった。素のままにしていれば華やかであろう顔立ちには険悪の雲がかかり、食器を扱う音にも時折鋭いものが混じる。イクラがオレンジのビー玉のように透き通ったパスタも、これでは台無しだ。各務が溜息を吐く。
「鮮。いい加減にしなさい」
「各務兄様こそ黙っていてよ。禁忌に触れたロリコンの癖に」
「聞き捨てならないな。僕が何だって?」
普段であれば聴き流す各務が、今日は鮮の言葉を鋭く咎めた。鮮がびくりと身じろぎする。各務は普段、温厚だが、その怒りに触れた時は相手に容赦なくなる。瑠偉ははらはらしながらフォークとナイフを動かしていた。コンソメスープは澄んだ琥珀色で、適温で咽喉通りが良い。金色の縁のある白い丸皿には飾りとして濃い紫の花が置かれていた。
「……だから。瑠偉のことよ」
各務に叩かれたばかりの鮮の勢いが急速に静まる。各務はちらりと柏木を見る。柏木は心得たように退室した。
ぐん、と各務が身を乗り出す。
「さあ、これで邪魔者はいなくなった。後は外で鳴く蝉くらいだ。それで。瑠偉が何だって?」
「汚れてるのよ、貴方たち! 兄妹で交わってるんでしょう、おぞましいわ、不潔だわっ」
「言いたいことはそれだけかな?」
はっ、と鮮が口を噤む。
「ねえ、鮮。今まで通り、この別荘に居続けたいかい? 僕が父さんに頼めば、君をここから放り出すくらい造作もないことなんだよ」
「――――あたしだって日暮鮮よ。日暮の人間よ。そんな勝手、父さんたちが許すものですか」
しかし各務は唇に三日月のような弧を描き、悠然としている。
「試してごらん。きっと君の思うようにはならないから」
鮮が唇を噛む。瑠偉と各務の親と、鮮の親の力関係は歴然としていて、それは子供たちの目にも明らかだったのだ。
外から変わった色彩の蝶が舞い込んでくる。
美しいという言葉だけでは足りないその蝶に、瑠偉は状況も忘れて魅入られた。