十、
寝苦しいだろうから、夜も僕の部屋で寝ておいで。
そう各務に言われた瑠偉は、いつかの鮮を思い出し、恥じらう。そして自室のベッドでされたことを思うと尚更――――。まさか、各務が無体な真似をするとは思えないのだが、無体の、一歩手前のことならされる可能性がある。氷だとてそうではないか。各務は意地悪だ。瑠偉の心を弄ぶようにそこここに波紋を残す。広がった波紋は円となり、重なり合って美しい模様を描く。だが、結局、瑠偉は枕を持って各務の部屋に来た。
扉から顔を出した各務は、瑠偉のそんな様子を眺めて微笑んだ。
「おいで」
この声の誘惑に勝てる筈がない。
瑠偉はセイレーンに呼ばれるように各務の部屋に足を踏み入れた。鮮が見たらどう言うだろうと瑠偉はドキドキしていたが、鮮はどうやら夏バテらしく、自室に大人しく籠っていた。まるで嵐が部屋に閉じ籠るようだと考えると、瑠偉は少し可笑しくなった。各務が不思議そうにそんな瑠偉を見て、ベッドをポンポン、と叩いた。
「大きいから二人で寝ても余裕だろう。そら、枕を貸して」
瑠偉が大人しく枕を各務に渡すと、各務はそれを自分の枕の横に置き、横になった。二人共、寝巻とネグリジェで、そこで並んで寝ることはごく自然なことのようにも思える。瑠偉は恐る恐る各務のベッドに上がりこんだ。
「お、お邪魔します」
それを聴いた各務が向こうを向いて肩を震わせた。
横になったは良いが、各務が隣にいる為に、少しも眠気がやってこない。すると各務が小難しい本を読み始めたので、瑠偉はほっと息を吐いた。
瑠偉が微睡み始めた頃だった。
しっかりした作りの手の甲が、瑠偉の頬を撫でたので、一気に瑠偉は覚醒した。
「お兄様……?」
綺麗な各務の双眸が瑠偉を見ている。唇はほんの少し弧を描いて。
頬をやんわりと吸われた。余りに自然な動作だったので、瑠偉が避ける間もなかった。また、避けたいのかどうかすら解らなかった。頤をつままれ、顔をより各務に寄せられると口づけられた。各務が上半身を起こす。
あ、と瑠偉は思った。これは〝男の人〟だ。心臓が早鐘を打ち始める。もう一度、今度は上から深く口づけられた。各務の口づけは先日に比べると乱暴だった。それに瑠偉が怯えたのを悟ったのだろう、各務は少し離れ、まだ育って幾ばくも無い瑠偉の胸に触れた。敏感な箇所に触れられ、びくりと瑠偉が身じろぎする。各務はまろやかな円を、慈しむようになぞり撫でた。瑠偉の感覚はおかしくなって、身体中がぴくぴくと微動していた。各務が瑠偉を抱え込む。
「驚かせてごめんね。おやすみ瑠偉」
けれどここまでの行為をされたあとで、瑠偉が安眠出来る筈もなく、只、愛しい兄の腕の中で冷房のない室温にいるより熱い思いをさせられたのだった。