一、
紺青の空に点を穿つような星々が輝いていた。誇り高い女王の薔薇が頭を高く持ち上げて、その香気をあたりに撒いている。醜悪よ滅びよと叫ぶ声が聴こえるか聴こえないか。
「もし次も出逢えたら、こうしてまたお茶を飲んでくれますか」
純白のテーブルクロスに並んだ茶器は金と白に色が統一されている。着座するのは今宵の空のような紺地に染め抜かれた単衣を着た青年と、淡い水色の銘仙を着た少女。
「はい。その時はきっと」
紅茶碗を持つ少女の手は抜けるように白く細い。亜麻色の髪は真っ直ぐ、肩のあたりまで伸びている。夜のお茶会を囲むように見守る薔薇の群れ。いつかまたというコトノハを何度も聴いてきた大輪の花たち。巡る輪廻の中、ほんの僅かな時しか逢瀬を持てない男女は花の色香より哀切だ。
いつかまた。
いつかまた。
次はいつか。
ほんの短い邂逅を、指折り数えて待ち望む。
「いつかまた」
「はい、いつかまた」
青年の姿が煙のように掻き消えた。
少女が紅茶碗を置き、身体をくの字に曲げる。ポタリポタリと降る涙雨。
「ごめんなさい……」
これは遠い過去、神域を侵した二人に下った罰だった。美しい蝶を追って先に踏み入ったのは少女。それを追って入った青年。私が愚かだったと少女は数え切れないくらい自分を責めた。青年は少女を止めなかった自分を責めた。引き千切られるような別離を繰り返す。ほんの束の間の邂逅は、日照りに振る一滴の雨のよう。苦しみ抜く永劫の花園地獄。両手で顔を覆った少女は、抑えられない嗚咽を漏らす。募りに募る恋慕の情は、しかしもとより許されるものではない。
青年は少女の兄だった。