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花園地獄  作者: 九藤 朋
1/26

一、

挿絵(By みてみん)


 紺青の空に点を穿つような星々が輝いていた。誇り高い女王の薔薇(ばら)が頭を高く持ち上げて、その香気(こうき)をあたりに撒いている。醜悪よ滅びよと叫ぶ声が聴こえるか聴こえないか。


「もし次も出逢えたら、こうしてまたお茶を飲んでくれますか」


 純白のテーブルクロスに並んだ茶器は金と白に色が統一されている。着座するのは今宵の空のような紺地に染め抜かれた単衣(ひとえ)を着た青年と、淡い水色の銘仙(めいせん)を着た少女。


「はい。その時はきっと」


 紅茶碗を持つ少女の手は抜けるように白く細い。亜麻色の髪は真っ直ぐ、肩のあたりまで伸びている。夜のお茶会を囲むように見守る薔薇の群れ。いつかまたというコトノハを何度も聴いてきた大輪の花たち。巡る輪廻(りんね)の中、ほんの僅かな時しか逢瀬(おうせ)を持てない男女は花の色香より哀切だ。


 いつかまた。


 いつかまた。


 次はいつか。

 ほんの短い邂逅(かいこう)を、指折り数えて待ち望む。


「いつかまた」

「はい、いつかまた」


 青年の姿が煙のように掻き消えた。

 少女が紅茶碗を置き、身体をくの字に曲げる。ポタリポタリと降る涙雨。


「ごめんなさい……」


 これは遠い過去、神域を侵した二人に下った罰だった。美しい蝶を追って先に踏み入ったのは少女。それを追って入った青年。私が愚かだったと少女は数え切れないくらい自分を責めた。青年は少女を止めなかった自分を責めた。引き千切られるような別離を繰り返す。ほんの束の間の邂逅(かいこう)は、日照りに振る一滴の雨のよう。苦しみ抜く永劫(えいごう)の花園地獄。両手で顔を覆った少女は、抑えられない嗚咽を漏らす。募りに募る恋慕の情は、しかしもとより許されるものではない。


 青年は少女の兄だった。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 純文学というのでしょうか。 芸術といった趣きや気品を作品に感じました。 当方に語彙力がないこともあって「銘仙」などの単語が分かりませんでしたが、それはそれとして、言葉の勉強にもなります。 …
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