婚約についてと氷の世界
今回も長めです。
「あの、姉様」
ある程度、お父様達がいるところから走って離れた私達は、体力切れ防止のために歩いていた。
ずいぶん奥に来たので、日の光があまりない。
かなり暗いため、心細くなり、姉様に聞きたかった事を聞く事にした。
「どうしたの?そろそろ休む?」
「ううん、大丈夫。姉様に聞きたい事があって。……アオバ兄様の婚約者のことなんだけど。」
姉様の前世のことを聞いたばかりだったから、ちょっと話しにくいけど。
「兄様の婚約者がアリシア様に決まったのは、兄様が何歳でアリシア様が何歳の時なの?」
その質問に先を歩いていた姉様は振り向いて不思議そうに首を傾げたものの教えてくれた。
「たぶん、婚約の話が出たのは、アリシア6歳、アオ兄9歳の時で、婚約したのがアリシア9歳、アオ兄12歳の時かな。アオ兄の誕生日は最近だったでしょ?だから、あとちょうど4年後かな。アリシアは私達の2個上だよ。まだ二人はあったことすらなかったと思う」
つまり。まだ、アオバ兄様とアリシア様は婚約の話すら出てないうえ、会ってすらない、と。
あと1年はある。前の時と違う可能性もあるにはあるが、そこらへんは、年齢的に大丈夫だろう。
……それにしても、婚約決まるの早すぎじゃない?
9歳って。とにかく年齢的に婚約は早まらないし、あと1年はある。よし。
「姉様。私達が姉妹だと言っても、それは私達の間だけでの話で実際は、従姉妹でしょ?」
「う、うん。まぁそうだね」
突然、兄様の話から、話題を変えた私に姉様が、不思議そうに返す。
「だから、姉様が私と戸籍上も姉妹になるためには、姉様と兄様のどちらかが、婚約するしかないわけ」
そう続けると姉様が完全に止まり、振り向いて私を凝視してきた。
「だからさ、姉様。アオバ兄様のこと、今も好きなら、兄様と結婚して?」
「なんでそうなるの⁉︎」
私が考えていたことを伝えると姉様が、叫んだ。
「私が、アオ兄と結婚なんて……しちゃ、ダメでしょ。私の願いが叶うなんて。最悪なことしちゃったし。アリシアもアオ兄のこと好きなのよ?今世では前世でやったことを償いながら生きていくって決めてたのよ?なのに、なんで?」
「姉様の願いじゃない。生まれてから、良いことがほとんどなかった、弥生水月の願いだよ。
アリシア様が兄様のこと好きだったって、前世ででしょ。アリシア様と兄様はまだ会ったことないし。それとも、二人って恋愛婚約だったの?」
まずないだろうと思いながら、聞いて見ると案の定、姉様は首を横に振った。
「政略婚約なら、アリシア様とグレン兄様も同い年だし。アリシア様の家が、メノウラーネ伯爵の座が欲しいなら、アオバ兄様がメノウラーネをグレン兄様に譲って、姉様は一人っ子だから、アオバ兄様が婿入りして、アイレーヴェ伯爵を継げば良くない?」
そして、私が適当な家に嫁ぐ、と。
考えていたことを全部言うと、姉様はこっちを向いて言った。
「でも、前世では兄様は私のこと嫌いだったし。それに私が大変なことしちゃって……。水月が良いことがなかったんなら、その分だってファラが幸せになるべきでしょ?」
はぁ、姉様ったらしつこいな。私が良いって言ってるのに。
「だから前世では、でしょ?
あと、良いことがどーのこーのは、良いの。それが私の願いだから。それに、姉様がそれで幸せになれたら、私も、最悪な人生送った甲斐もあるよ?」
だから。考えて欲しいな。
そう思いながら姉様を見た。
「そう言うことだから、考えといて? ほら、進もう?」
そろそろ進まないとヤバそうだ。
「う、うん。」
あ、私、姉様に対して、ちょっと普通に話しすぎたな?
まあ、しつこい姉様が悪いのだ。
しょうがないだろう。
そのあとは会話も少なく奥に進んだ。
しばらく進むと霧が出てきた。かなりの暗さである。気をつけないとはぐれそうだな。
「姉様、手を繋ごう?」
不安になり姉様にそういうと、姉様は頷いて3歳児の小さな手をつなぎ、少し前に出た。
ありがたい。私もし、戦闘になったら、全く役に立たないのだ。一応魔法も練習して中級まではできるようになったものの、そこまで使えない。
精霊術師でもある姉様がいてくれると安心だ。
奥に進むに連れてさらに霧が濃くなっていく。
3歳児と2歳児の目線なので尚更暗く見える。
しばらく進んだ頃、姉様が止まった。
「どうしました?姉様?」
繋いだ姉様の手を軽く引っ張ると、姉様が呟く。
「前」
言われるがまま前を見ると。
そこには、氷の世界が広がっていた。
「え?なん、ですかこれ?」
今は秋だ。今日は雪も降ってない。
なんでこんな……。
「わからない。ファラ、危ないから私のそばから離れないで」
繋いだ手をさらに強く握られる。
「ねぇ、ファラ……、っ、危ないっ!!」
私の方を振り返った姉様が声を上げた。
「風の精霊リーシアネ!」
姉様が何か言ったあと、私の身体が風により飛ばされた。何が起こってるのか良くわからずに姉様の方を見ていると、姉様が駆け寄ってきた。
「ごめん、ファラ!怪我はなかった?」
「姉様、なにが……?」
姉様に尋ねると、無言で私がさっきいたところを指差した。そこには、氷の刃が刺さっていた。当たっていたら死んでいたかもしれない。
「……あり、がとうございます。姉様。」
お礼を言うと、姉様はほっとしたように笑った後。
「私は何もしてないよ。リーシアネのおかげ」
リーシアネ。それが姉様と仲の良いと言う風の精霊だろうか。
「そんなことないです、姉様が気づいてくれなかったら、私、死んでたかもしれないし」
そう言うと姉様は言った。
「そうならなくてよかったね。先へ進める?」
「はい!」
頷くと、姉様は再び私の手を取ると、進み始めた。氷の世界はかなり寒い。
ミミリス様の家はどこだろう。
「あの、姉様。ミミリス様のお家ってこっちであってるんですか?」
「たぶんね。この場所全体に影響を与える魔法なんて見たことない。たぶん最上位魔法だろうから。それにね、リーシアネの……精霊の加護がなければすぐに死んじゃうくらいの冷たさだよ。私達の感覚的にはかなり寒いくらいだけど。ほんとうなら入った瞬間に凍死してる」
「そうなんですか⁈リーシアネ様、本当にすごいですね。」
「そうでしょ?」
友達を褒められて姉様が誇らしげに笑った。
そうして、さらに奥の奥に進んだ頃。
あることに気づいた私は、姉様にそれを伝えた。
「あの、姉様。ここに入ってから、気になってたんですが。この場所、時間止まってません?」
今日は出来ればあと2話更新します。