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鏡柵の番人  作者: 茶内
40/50

      祭りの後で

「お前たちにも見せてやりたかったよ!静まり返った連中の顔ときたら、傑作だったんだぜ!」


 ロンドルが上機嫌に酒をあおった。その様子をヴォンが静かに見守り、キトは当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らした。


「それで、その後はどうなったの?もちろん優勝したのは分かるけど、どんな褒美をもらったんだい?」

 キトの質問に、ワネとロンドルが顔を見合わせて、苦笑いを浮かべた。


「一回戦負け」


 うん?とキトが瞬きを繰り返した。


「どういうこと?いま、一回戦勝った話をしてたんだよね?」


 チッと舌打ちしたのはロンドルだった。話の続きは彼に譲ったほうが良さそうだ。


「それがよぉ、またクソ豚大尉殿が出てきたんだよ・・・」


 ※ ※ ※


「ただ今の勝負、ワネ兵の反則負けとする!」


 ベッチャ大尉の一声に会場全体がざわついた。


「静粛に!静粛に!」何とか静めようとするがざわめきは治まらない。痺れを切らした大尉は腰から銃を抜くと、空に向けて発砲した。


タァンッと乾いた音が闘技場に響き渡り、やっと静かになった。


 ベッチャ大尉は何事もなかったように咳払いを一つした。


「理由を説明する!何度申したように、この大会は剣術大会である!試合途中、ワネ兵の剣が折れた。これが戦場だったらどうか?果たして先ほどの様に相手の武器を奪い取って返り討ちにすることが出来るだろうか?答えは『否』だ。ワネ兵は剣を折られた時点で死んでいた。よってブル兵長の勝利とする!以上、異論は認めない!」


 ベッチョ大尉は全て言い終わると、さっさと闘技場をあとにした。


 ※ ※ ※


「なんだ、その裁定は!」キトが怒りにまかせてこぶしを振るい、足もとの草を殴った。ポスッと優しい音がした。


「確かに、なりふり構わないにしてもひどいな」ヴォンも腕を組みながら顔を歪めた。


「けどまぁ、怪我もしないで終われたんだから良かったと思うよ」


 ワネが二人の機嫌を窺うように愛想笑いを浮かべた。


「まぁ、当の本人がこんな感じだから、俺たちがあまり怒ってもなぁ・・・」


 ロンドルの怒りも治まりつつあるようだ。「それによ」と話を続ける。


「大会が終わって、さぁ帰ろうって時によ、優勝した奴が声を掛けてきたんだよ!なんて名前だっけ?」ロンドルがワネに助けを求めた。


「ジャンザザて名乗ってたよ。二十一歳だって。若いのにすごいよねぇ」


「そう、そのジャンジャカジャンがよ、『今大会ではあなたが一番強かったと思います。今度、手合わせできたらお願いします』て言ってきたんだよ。あれは良い奴だったな。うん見込みあるよ!」


 ワネはコクリと頷いて、それからキトに顔を向けた。


「キト、僕が強くなったのって・・・」


「もちろん皇実を摂取したからだよ」


 やはりそうだったのか。


「なんで教えてくれなかったんだ?」


 ワネが不満そうに訊くとキトは何でもないことのように答えた。


「だって、こんなとこの監視員をしてる兵士に強さとかあまり関係なさそうだったから」


 何も言い返せずに押し黙るワネを横目にロンドルが口を挟んだ。


「それって、前に言葉が分かるようになるって言ってた果実だろ?そんな効果もあるのかよ」


 ロンドルの感心した様子の言葉を聞いたキトが声をかけた。


「良かったらロンドルもこれを食べてみなよ!」


 キトが出したのはリンゴ程の大きさの水滴のように透明な果実だった。


「・・・なんだコレ?」ロンドルが不審げに訊いた。


「え、キト、これ・・・新しい実が見つかったの?」


 ワネが訊くと、キトはクビを振った。


「いや、これはあの時の実だよ。あれからずっと探しているけど、どうやらこの実が最後の一個みたいだ」


「ずっと食べずにいたのか?」ワネの質問に今度は頷いた。


「ああ、何となくね。食べなかったんだ」


 つまりキトの身体には至神氣がまったくない状態のままということか。ワネとキトの会話で、ロンドルもこの果実がなんなのか察しがついたようだ。


「まさか、これが・・・」


「ああ、皇実だ。これをロンドルに食べてほしいと思っている」


 姫!とヴォンが強い口調でいった。


「何度も許されることではないぞ!皇実の規則は知っているだろう!」


 怒られたはずのキトはフフンと鼻で笑った。


「哀れなるヴォンよ。皇実についての規則は、あくまでミカバラ国内でのものだ。ポエン国に来てしまえば法の外だよ」


「一応この二人は絶縁国の人間だということを忘れないでほしいものだ!」


 ヴォンの口から出た何気ない一言に、キトの表情が一変した。


「ヴォンよ、今のは聞き捨てならんぞ」


 いつもの子供のような口調とは違い、声に重たい響きが含まれている。


「ヴォン、今一度確認する。この二人はお前の中ではまだ敵の認識なのか?一度しか訊かん。覚悟を持って答えよ」


 ヴォンが反射的に片膝を着いた。


「失礼しました。この二人は国関係を越えた仲間と考えております。先ほどの言葉は失言であり、撤回させて頂きますゆえ、お許しを」


 うむ、とキトは表情を変えずに頷いた。


「それでは、今すぐ二人に謝罪の意を伝えよ。そのあとはミカバラ国の規則に則り、馬糞を頭に乗せて一日過ごすのだ」


 え、馬糞?聞き間違えかと思ってもう一度キトの顔を見てみると、先ほどの威厳は消え去り、いつもの小生意気な表情に戻っていた。彼女の体が小刻みに震え出したかと思うとすぐに爆発した。


「ぶひゃひゃひゃ!ヴォン、なに膝まずいちゃってるの!?あーおかしい!」


 笑い転げるキトからヴォンに目を移すと、彼はまだ片膝を着いた体勢のまま、全身が小刻みに震えていた。これはキトと違い、怒りによる震えのようだ。


 ヴォンはゆっくりと立ち上がった。


「お、来るか?」


 キトが身構えたが誰もいない方向に足を向けた。三人が彼の動向を目で追っていると、どうやらロンドルの愛馬モココがいる草むらの方に向かっているようだ。


 モココの足もとにしゃがみ込んで何かしている。モココも口をモグモグと動かしながら首を曲げて興味深そうにヴォンの様子を見ている。


 やがて立ち上がり、こちらに戻ってきたヴォンの右手には太めの木の枝が握られていて、その先端に悪臭を放つ茶色い物体が付着していた。


「一日馬糞の刑でしたな。監督不行き届けとして、姫にも付き合ってもらいますぞ」


 言い終わると同時にこちらに向かって突進してきた。


「ギャー、バカ、やめろ、ばばば、ふんぎゃああああ!」


 何故かワネとロンドルも標的にされて、三人は逃げ惑った。


 後頭部に馬糞をつけられたキトは泣きながら川に走っていって頭から飛び込んだ。


 三人になったのでワネは先ほどのことをヴォンに訊いてみた。


「なぁ、ヴォン、さっきのキト、なんかすごかったね」


 ヴォンは苦い表情を浮かべた。片膝をついたのがよほど不服だったのだろうか。


「お主らには失礼なことを言った。申し訳なかった」


 あらたまった様子で言ってきた。


「いや、まったく気にしてないから」


「俺もだ。それにしてもキトの奴、最後はおちゃらけてごまかしていたけど、あれってわりと本気で怒ってたよな?」


 ロンドルの質問を受けてヴォンはチラリと川の方に目を向けた。キトが頭を川につけて執拗に頭を掻きむしっている。


「落ちない、匂いが落ちないよぉ・・・」


 そんな泣き声も聞こえた。まだしばらくは戻ってこなさそうだった。


「それだけお前達のことを大切な友だと思っているということだ」


 そう語った時のヴォンの表情は、子を思う親のような慈愛の満ちたものだった。


 しばらくしてからやっとキトが戻ってきた。


「あーもう、本当に最悪だった!我が正式な王女になったら覚えておけよ!馬糞でつくった家に生涯住まわせてやるからな!」


ミカバラ王国の刑は馬糞絡みのものしかないだろうか。


「それとロンドル!」キトが呼びかけた。


「先ほどの話の続きだけど、皇実はどうする?」


 ロンドルは少し考える素振りを見せてから、薄ら笑いを浮かべながら手を振った。


「やめとくよ。別に俺は強くなりたくもねぇし、今はお前等の言葉も分かる。この先死にかけるようなこともないだろうしな」


 しかしキトは引き下がらなかった。


「実は皇実にはもう一つ効果があるんだ」


 ロンドルがキトに顔を向けた。


「それは他国の人間もミカバラ国で生きられるようになるんだ」


「ええ!」ロンドルが分かり易く反応した。それをキトは見逃さなかった。


「ロンドル、君は前に『ミカバラ国を見てみたい』て言ってたよね?これを食べれば願いが叶うんだ」


 言いながら、あらためて皇実を差し出した。今度はヴォンも口出しはしなかった。


「・・・本当にいいのかよ。キト、これを食わねぇと王族の力が戻らねぇんじゃねぇのか?」


「皇実はきっとヴォンが新しいのを見つけてくれるから」


 キトの言葉にヴォンは苦笑いを浮かべた。


「じゃあ、有り難くもらうわ」


 ロンドルが皇実を受け取ったのを確認してキトは満足気に頷いた。


「これでいつでも四人全員でミカバラ国に移住できるね!」


 茂みの奥でロンドルの愛馬がいなないた。


「あ、モココの分もないといけないのか・・・。ヴォン、皇実を二つ見つけてくれ!」


「ヴォン、すまないけど僕の妹も連れていきたいから三つになるな」


「お前等、ワタシを何だと思っているんだ!」


 さすがのヴォンも怒った。


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