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鏡柵の番人  作者: 茶内
28/50

      真相

「スパイ?それはちょっと無理があるんじゃねぇか?」


 ルーロンの真面目な質問に、ワネは笑って返した。それにジャンザザが噛みついた。


「それなら、お前が未だにここで監視員をしていることの方がよっぽど無理があるだろう!」


 突然の幼なじみの怒りの声に驚いたのはルーロンの方だった。


「ちょっとジャンザザ、いきなり大声出さないでよ」

ルーロンの苦情を言うがジャンザザは彼女に目を向けようともせず、前方の監視員を睨みつけている。


ワネはそれを平然と受け止める。


「え、意味が分からねぇんだけど。どうして俺がここにいたらいけないんだ?」


「とぼけるんじゃない、お前は一ヶ月前に城に侵入して何人もの兵士を、俺の仲間を殺した。裏は取れてるんだ!」


 はぁ?とワネは驚きよりもウンザリしたような表情を浮かべた。


「あの事件の犯人、まだ俺が犯人だと思ってる奴がいたのかよ?お前の方こそしっかり裏を取ってくれよ」


「違うと言うなら証拠を見せろ!」ジャンザザの鼻息がどんどん荒くなってるように感じる。


「証拠もなにも、今ここでこの仕事を続けていられることが何よりの証拠だろ?」


「それはお前が、今でもポエン軍の内部情勢を他国へ流しているからだろう!」


「内部情報?お前は何を言ってるんだ?」


 ワネは本当に意味が分かっていないような表情で言った。


ルーロンはそんな彼の様子を見て、自分がとんでもない思い違いをしているのではないか、と思い始めていた。


 しかしジャンザザは詰問を続ける。


「妹との手紙の中に暗号を混ぜて、国の情報を他国に流していたことは分かってるんだ!」


「手紙の中?何を言ってる?なんでそんな回りくどいことをしなきゃいけないんだ」


「関門で中をチェックされるから・・・」


「機密情報をやりとりするなら、お前らがさっき通った裏道を使うに決まってるだろう」


 正論を言われてジャンザザは一瞬黙った。しかしすぐに口を開いた。


「それなら、なんのために死んだ妹を生きてるように見せかけて文通の真似事をしてるんだ!」


「え?」ワネが目を見開いた。


「いま、なんて言った・・・?」


「だから、妹は死んでるのにどうして代筆までして手紙のやりとりをしてるんだ、と訊いたんだ!」


 ジャンザザの話を聞き終えたワネの顔から、表情がすっと消えた。


「サーキ、死んでるのか・・・?」


 ジャンザザの横からルーロンが口を挟んだ。


「ワネ、ひょっとしてサーキさんが亡くなったこと、知らされてなかったの?」


 ルーロンは自分でも、なんて馬鹿なことを質問をしてるんだ、と思った。彼の様子を見れば一目瞭然じゃないか。


「サーキは隣国に留学してるって言ってたのに。なんだ、死んでたのかぁ・・・」


 ワネは空を見上げて、ゆっくり長く息を吐いた。


「あいつら、俺のことだましていたのか・・・」


「・・・ワネさん?」


 ルーロンの声に反応したのか顔を下ろすとゆっくりと立ち上がり、二人に視線を向けた。


 彼の表情は意外にも穏やかなものになっている。


「話すよ。ここで起こったことを全部」


 ルーロンにとっては待ち望んでいたことのはずなのに、全身に寒気が走った。この感覚は前にも一度、経験したことがある。


 三年前のあの日、おじいちゃんが病院に運ばれた時だ。


 付き添いのルーロンが廊下の長椅子に座って、ひたすら手を合わせて神様に無事をお願いしていると、いつの間にか目の前に無念そうな表情の医者が立っていて、


「残念ですが・・・」と言われた時のあの感覚だ。


 そしてワネは、ゆっくりと真相を話し始めた。




第一部 終

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