プロポーズの返事の前に
約束した時間の五分前にドアをノックされた。
「はい、どちら様でしょうか」誰かは分かっていたけど外に向かって訊ねた。
「ジャンザザだけど・・・」かしこまった声が返ってきた。
扉を開けると幼なじみがかしこまった服装をして立っていた。
「どうぞ、入って」ルーロンが促すとジャンザザは「おじゃまします」と硬い口調で言って靴を脱ぎ始めた。
「何か飲む?一応お酒もあるけど」
言いながらルーロンはテーブルの席を勧めた。
「いや、大丈夫、何もいらない」
ジャンザザは玄関側の椅子に腰を下ろしたのでルーロンは向かいの席に座った。
「ええと、昨日の返事だよね」
「いや、ちょっと待ってくれ」ジャンザザは手の平をルーロンに向けた。
「昨日は勢いで言っちゃったけど、その前にハッキリさせたいことがあるんだ」
「え、なに?」
「お前が今何を調べているのか、ちゃんと教えてくれないか?俺の分かることは全部答えるから」
「どうしたの、急に?」
「いや、しっかり終わらせてからの方がいいかな、と思って」
「それはありがたいけど、軍事機密に触れちゃうよ?」
「それは・・・今、この瞬間だけは目をつぶる。だから聞かせてくれ」
「マジで?よっしゃあ!」
これは真相を知る大チャンスだ。一気にたたみかけよう。
「それじゃ、さっそく見てもらいたいものがあるんだけど」
言いながらルーロンは鞄を引き寄せて中に手を入れた。
「なに?」とジャンザザが両腕をたたんだ。
これなんだけど、とルーロンはミッカリさんに描いてもらった絵を差し出した。
「軍の兵士さんだと思うんだけど、誰だか知ってる?」
ジャンザザは絵に視線を向けたまま頷いた。「ああ、知っている」
―――やった!これで真相に近づく。ワネの名前を騙っているのは誰なのか・・・
「これはワネだよ。たしか、クドラ山の監視員をしている男だ」
ジャンザザは断言した。
※ ※ ※
「え、は?これってワネ!?間違いない?」
予想と違う結果に動揺しながら確認したが、ジャンザザは平然とした様子で頷いた。
「ああ、間違いない。査定試合のあとちょっと喋ったし」
「マジで・・・?」
そうなると、ワンパの言っていた【暗殺未遂犯はワネ】説の方が嘘ということになる。
「あの、嘘つきエロ親父め・・・」ルーロンが怨嗟の呟きを漏らした。
「ルーロン、話を聞かせてくれないか?」
今さら隠すこともない。ルーロンは昨夜のワンパから得た情報を全て話した。